・筋や筋肉レベルでの二次障害・
・かたよった筋肉のつき方・
発育期においては、内側への力が入りつづける人の場合は、外側と比べて内側の筋肉はつきやすい。筋も同様であるから、かたよった筋と筋肉のつき方となる。内側の筋と筋は、サイズとしては短いし、逆に外側のそれは引っぱれている分だけ長い。
・筋肉の凝り・
一方向の力が入りつづける状態の筋と筋肉は、凝りやすい。内側に力が入る人の場合は、力の入り方が内側の筋と筋肉の方が強いので、その筋と筋肉の方が凝りやすい。もちろん、外側も凝りとしては発症する。凝りとは、その筋と筋肉の血行状態が悪くなることである。
・凝りから痛みへ・
一方向の力が入りつづけることによって、凝りが発症し、それが悪化すると痛みが発症する。
・凝り→痛み→しびれへ・
さらに悪化すると、末梢の毛細血管の流れも悪くなり、知覚も鈍くなる。そうすると痺れが発症してしまう。
・しびれから無感覚状態へ・
痺れの段階の次に訪れる症状は、無感覚状態である。幼児から、常に凝りや痛みや痺れのままに放置すると、人間の体はこれらの症状に対して適応してしまう。つまり、いちいち痛みや凝りを意識しては日常生活をやっていけないので、感じないように体が順応していってしまうのである。このことは、自分の体の状態の悪化に気がつかないということとなる。
軽度脳性麻痺者の場合は、自らの意志でもっても、一方向以外でも体を動かすことは多いと思う。そうすると、体は条件としてはほぐれやすい。ところが、障害が重度の場合(全面介助を必要とする人)は、あまり自力では体は動かせない。しかし、一方向の力は入り続けるわけであるから、この無感覚状態は年齢的に早く訪れてしまうのではないか。
・身体機能の低下へ・
筋や筋肉の無感覚とは、自覚できないほどの体の状態の悪化とて理解できる。この段階に至ると身体機能の低下が現れてくる。一方向に力が入りつづけてしまうことで、筋と筋肉は劣化し、弾力性を失う。そして固くなる。固くなってしまっている筋や筋肉は、老化現象としても位置づく。老化して固くなった筋や筋肉は、力が入らなくなり、体は動かなくなる。自力で可能だった身辺自立
が不可能な事態となるのである。
・骨や骨格レベルの問題・
・骨の歪み・
発育期では、一方向の力が入りつづける中での骨の発育なので、その骨はその方向へと歪んでしまう。四肢においても、体幹においても同じと言える。骨格全体は一方向の力の方向で歪んでいってしまうのである。
・骨の磨耗・
一方向のみの力が入りつづけるので、骨の磨耗が生じやすい。・骨を包み込んでいる筋や筋肉が弾力性を失っていると(上記・の状態)、外的な力などの打撃を直接に骨は受けやすくなる。
・脊椎の変形・
脊椎のレベルでは、骨が次第に変形したりとげを形成したりする。骨と骨の間の椎間板が磨耗して、骨がずれたり滑りだすこともある。
・神経レベルの障害・
・筋や筋肉の異常による末梢神経の圧迫弾力性を失っている筋や筋肉(上記・の)は、四肢の神経やを圧迫する。
・骨の変形による脊髄・神経の圧迫・
一方向の力が入りつづける筋や筋肉によって、骨の変形も生じるが、それによって神経根や脊髄(自律神経も含む)を圧迫する場合もある。これらの場合、痺れや無感覚が生じる。あるいは、身体機能低下を招く。脳からの運動の指令信号が、脊髄を通って四肢の神経へと流れ、体は実際に動くのであるが、この指令信号の通り道である脊髄や脊髄神経を、弾力性を失っている筋や筋肉・変形した骨が、圧迫してしまう。するとその圧迫箇所で、指令信号は(圧迫の度合いにもよるが)ストップしたり著しく流れが悪くなる。その結果、身体機能低下を招くのである。
ただ、これ以前にも筋や筋肉が弾力性を失っている段階におい
て、既に身体機能低下は生じていると思われる。
・痙性麻痺・
これが、錐体路系の神経を圧迫した場合、痙性麻痺となる。
・自律神経系の障害・
脊髄神経には、自律神経も混在している。この自律神経系は、内蔵諸器官を支配し、内蔵と中枢の情報交換の架け橋を担っている。この経路への圧迫は、生命への危険に直結しているとも考えられる。
・ 二次障害についてのまとめ・
二次障害の発生する過程を、もう一度整理しましょう。
脳性麻痺者は、目覚めているときに自分の意思とは関係なく、体に一方向の力が入りつづけています。このことによって、二次障害が発症します。症状のパターンは、発症する器官によって大別すると、
・筋や筋肉〜凝り、痛み、痺れ、無感覚、身体機能低下→神経への圧迫
・骨や骨格〜骨や骨格の歪み、骨の磨耗→神経への圧迫
・神経(脊髄、脊髄神経、自律神経系)〜筋や筋肉の老化、骨の磨耗・変形による様々なレベルでの神経圧迫。症状は、痛み、痺れ、無感覚、身体機能低下→痙性麻痺、自律経系のトラブル
・こ・の・報・告・集・に・登・場・す・る・用・語・の・解・説・
この報告集には、医学的・専門的な用語が多数登場してきます。
その多くは、私たちが初めて耳にするもの、または聞いたことはあるけれども、正確には理解していないものばかりです。
報告をはじめるにあたって、皆さんの理解をより深めていただくために、それらの用語をここにまとめて取り出しわかりやすく説明を加えました。この報告集を読まれる上で、お役に立てば幸いです。
●症状の診断方法〜画像診断●
首・腰痛や四肢の痛み・痺れが発症しており、脊椎や中枢神経系に異常・障害があると予想された場合、一枚の画像による診断は決定的な情報源になります。
画像診断には様々な種類がありますが、その目的にあった方法
が選択されるべきです。
●脊髄造影術●
脊髄と神経根の様子を詳しく見るために、腰から針をさし腰椎に造影剤を注入して、X線撮影をします。注入された造影剤は、本来は写らない脊髄や神経根の影を、白く写し出してくれます。造影術には他に、椎間板に直接造影剤を入れる椎間板造影術、神経根に注入する神経根造影術など、多数あります。
●C・T検査●
コンピューターを使用して、水平面の断層写真を撮影します。通常の撮影では見られない脊髄や椎間板の形、脊柱管の横断面の形などが、詳細に見られます。
・磁気共鳴画像検査(M・R・I)
検査を受ける者を強力な磁場の中に置いて、体のなかの分子の量に応じて発生する共鳴信号のようなものを、コンピューターで処理し画像化します。様々な角度からの断像撮影が可能で、特に脊髄の変化や椎間板ヘルニアの診断に威力を発揮します。最も新しい検査法で、性能が高いほど器械も高価となり、C・Tよりもさらに専門的な知識が要求されるため、日常的にいつでも、どこの病院ででもというわけにはいきません。画像診断の問題点としては、脳性麻痺者は自分の意思とは関わりなく体が動いてしまうことを理解している医師が少ないこと、撮影の瞬間体が動いてしまって画像がぶれ、正確な診断ができない場合もあることなどがあります。
画像診断を受ける場合には、まず相手の医師に自分の体の状態やアテトーゼの傾向などをきちんと説明し、脳性麻痺者の体を理解してもらう努力をしていきましょう。
●保存的治療●
手術以外の治療を、「保存治療」といいます。障害者の皆さんは、以下の各療法のいずれかを受けられたことがあるかもしれません。保存治療では、従来の西洋医学ばかりではなく、東洋医学からのアプローチも大いに注目されつつあります。
本報告集の安倍さん、遠藤さんもこれまで様々な治療法を試みてきました。ここでは用語説明だけにとどめ、その有効性等については後章に託します。
●気功●
中国に古くからある治療法の一つで、もともとはインドのヨガの一部として伝えられたものだと言われています。その方法には、外気功と内気功があります。外気功は、気功師が患者に対して手をかざしたり当てたりし、患部から体内に「気」を入れ血液の循環を良くします。そして患者の「気」を高めることによって自然治癒能力を増大させて、治します。
内気功は、患者自身が気功師から呼吸法(気息、調息という)を教わり、自分で治す方法です。瞑想をしてタンデン(へその下の
ボ)に意識を集中させることによって深い呼吸を行うというもので、これによって患者の体内に「気」を充満させ血行をよくします。
そして自然治癒能力を高めることによって治します。
効果は肩こり、腰痛、背骨の矯正、内蔵疾患、虚弱体質など様々だと言われています。
●授光●
授光者が患部に手をかざすことにより、患者の体内に残留している薬物や不純物を身体の表面に引き出し、取り除くことによって血行を良くし、治療する方法です。
本報告集に登場する安倍さんは、「授光」による治療を受けていますが、股関節の痛みは徐々に軽減しています。
●カイロプラクティック●
脊柱を指圧する療法です。骨格の歪み、特に背骨の歪みを手技によって矯正し、神経整理機能を回復し、健康を増進させようとする療法です。アメリカで生まれ、ヨーロッパや日本に広まりました。
●理学療法(phygical therapy, PT)●
リハビリテーションとは、先天的に心身に障害を持っている人や、病気や事故により治療後も何らかの機能障害の残った人に対して、障害を最小限に減らし、さらに機能回復訓練によって残された機能を最大限に発揮できるようにするというものです。
医学的リハビリテーションにおける治療では、・理学療法、・作業療法、言語療法、心理療法などがあります。
理学療法は、基本的な運動能力の回復を主な目的としています。身体に対して物理的な刺激を与えて、筋や筋肉・末梢神経に働きかけることで機能回復を促します。
●牽引療法●
頸椎や骨盤を、コルセットや牽引器を使って一定の形に固定することで、脊椎の安静を保ち、椎間板や関節への負担を軽くします。上肢全体を固定するハローベスト、頸部に巻くポリネックなどがあります。
●優生思想●
「優生」に対しての対語は、「劣生」です。障害者が「劣生」としての評価しか受けられず、コントロールする対象、ストレートに言えば、抹殺される対象ということに繋がります。こういう考え方が普遍化していけば、やがては障害者が生きているのを、抹殺されてもよい人間がのこのこと生きている、と見られてしまいます。1974年ですから、今から21年前に「優生保護法の改正」問題が登場しました。これは簡単に言えば、「羊水チェックをして障害者なら産まない」というものです。
それこそ、ナチスが行なった障害者の大量抹殺への道へつながっていくであろう危険性をはらんでいます。ナチスにとっては、そうすることが世界に冠たるドイツ民族の「優生を保護」することであったわけです。
人間が人間を、国家なり社会なりの役に立つか立たないかで差別し、排除する心がある限り、「ナチス的世界」の再登場を警戒しないわけにはいきません。
●「介護」と「介助」について●
このパンフレット全体を通して、私たちは「介護」という表現を使っていません。それは、「介護」という表現には、高齢者や障害者、病人が依存的・受動的に介護者から世話を受けるというニュアンスが含まれているからです。「介助」はあくまでも供給する側と受ける側が対等であり、自分の望む生き方(自立と自己表現)が困難な利用者(介助を受ける側)に対して、可能な最大限の利用者管理のもとで、彼らの自立と自己表現を支援するために、利用者の日常生活上の必要に対して、直接なされる援助であると考えています。
親代わりの保護ではなく、障害者の主体を尊重し、その人の要求を実現するための手助けとして、「介助」という表現をしています。
●変形性股関節症・変形性脊椎症と痙性麻痺●
人体の関節では、固い骨と骨との接点にクッションのはたらきをするものがあって、骨への直接の衝撃や負担を和らげたり、滑らかな運動を助けています。
ところが、障害者、健常者に関わりなく年をとるにつれて、そのクッションのみずみずしさ、弾力性は失われ、変形したりひびが入ったりします。それに応じて、骨自体も磨耗や変形が見られるようになります。そして、若いころのしなやかな運動性は失われ、腰や節々の痛み、骨が神経に触れることによって現れる手足の痺れ・感覚麻痺等の症状につながっていくのです。
脳性麻痺者は、幼いころからアテトーゼや体の硬直によって
・一方向の力・が常に入りつづけ、同じ姿勢でいることが比較的多く、不自然な形で体が・パターン化・されています。そのため、筋・筋肉、骨のクッションや関節部分等の部品の疲労・磨耗は非常に早く、このような加齢的変化が健常者よりもずっと早い時期に、それもたいていは特殊な形で、現れてくるのです。症状は出てきているのに、病院を選び医師に理解してもらうまで通いつづけるエネルギーがない。術後のリハビリがうまくいかないため、手術も簡単にはままならない。そうしているうちに、体は深刻な状態へとどんどん発展していってしまう。
これが、脳性麻痺者の二次障害における、最悪の段階です。
ここでは、後出の遠藤さんの二次障害が進行して至った、深刻な症状について説明します。
・変形性頸椎症・
●頸椎のしくみ●
人間の体を貫いている脊椎の中でも、頸椎(脊椎の頸に当たる部分)は頭蓋を支え、脳と四肢・体幹を結ぶ神経を包んでいる、きわめて重要な中枢的役割を担っています。
頸椎柱は、筒状になって積み重なった7個の・頸椎骨、・その間にあって骨のクッションとなっている6個の・椎間板、・左右一対ずつ、計16個の・椎間関節・によって連結されています。この筒(脊柱管)の中には、脳からの指令信号を体の末端の神経へと伝える、ケーブルの役割をしている神経の太い束、・脊髄・が通っています。
連結部分の側面にあるすきまの穴(椎間孔)からは、脊髄神経の「根っこ」のようなもの(・神経根・)が飛び出していて、主に上肢につながっています。神経根は、その飛び出している穴によって、体のつかさどる部分が違っています。例えば、3番目と4番目の頸椎の間から出ている神経根は横隔膜を、4番と5番の間の神経根は三角筋を支配しています。手の知覚をつかさどるのは、それぞれ6番、7番、8番目の神経根です。上肢や頸など体のどこかに痛みや不快感・感覚異常が現れた場合、頸椎をはじめ脊椎の神経根か根元の脊髄神経のある部分に、何らかの異常が生じている可能性を予想できます。
●変形性頸椎症●
頸椎の3つの関節(椎骨・椎間板・椎間関節)、特に椎間板は、一生を通じて著しい力学的荷重にさらされています。だれでも20歳を過ぎると、クッション作用が減じていき亀裂やひびが入ってきます。それに伴って起きる症状には、椎間板の中身がはみ出して周りの神経根や脊髄自体を圧迫・刺激する・椎間板ヘルニア・、骨が前後にずれて滑りだす
●脊椎分離・すべり症・(腰椎に多い)、そして・変形性脊椎症・などがあります●
椎間板がすり減ったり、その周りの骨が磨耗すると、関節の不安定性と運動性の障害を防ぐために、椎間関節のあたりに骨棘(こつきょく)と呼ばれる骨のとげ状の突起が形成され、分厚く変形します。これは、何とかして関節のバランスを取り安定性を回復しようとする、人体の不思議なワザだといえます。
骨のトゲができたり、骨と骨とのあいだが狭まると、神経根の飛び出す穴が狭められ神経根は圧迫されます(・神経根症状)。そしてさらに、脊椎にくるまれた脊髄自体をも刺激・圧迫するようになります(・脊髄症状・)。脊椎柱の退行・変性に伴って骨の増殖が生じ、神経根ならびに脊髄を圧迫する。これが、「変形性脊椎症」の正体です。この脊椎症が頸部において起こることを、・変形性頸椎症・というのです。
神経根が圧迫される「神経根症状」では、圧迫箇所によって、上肢の痺れ、放散痛、知覚異常、脱力、後頭部・頸から肩・背部のこり、不快感などの自覚症状が現れます。また脊髄が圧迫される「脊髄症」では、知覚障害、字を書く・着替えるなど手指の巧緻運動不全、四肢のつっぱり感、あるいは・痙性麻痺・が引き起こされるのです。
遠藤さんの場合、学生のころから感覚異常や四肢の痺れ・痛みに悩まされていましたが、その原因はこのような頸椎症による神経圧迫に帰することができるようです。
しかし、脊椎症は頸部のみならず、腰部、胸部などさまざまなレベルで起こりうることも考えなくてはいけません。
・痙性麻痺・も、神経の圧迫から生じる症状です。、四肢の筋肉の随意性をつかさどる運動神経の錘体路部分の障害で、筋肉の萎縮はありませんが、筋は棒のように硬くなります。知覚異常や痙性の麻痺を引き起こします。