二・次・障・害・に・対・す・る・外・科・手・術・
去る95年5月〜6月、我々「自立の家」をつくる会では、「二次障害連続講座」を3回にわたって開催しました。以下は、5月21日に下北沢タウンホールで行われた、横浜南共済病院整形外科の大成克弘医師による講演の内容です。大成先生の講演に先立ち、先生の手術を受けられた玉井さんに、自らの体験談を語っていただきました。
大成先生は、これまで多くの脳性麻痺者の手術を手がけてこられました。脳性麻痺者の体について非常に精通されており、今回は主に変形性頸椎症とその手術について大変わかりやすくお話して下さいました。
玉・井・さ・ん・の・お・話・
厚木市で作業所2件と自立センターの代表をやっていて、昭和25年生まれの45歳。4年間就学猶予で、遅れて学校へ行きはじめ、神奈川県立ゆうかり園を卒業した。大学を卒業したころから、肩のあたりがピリピリしていた。肩にトゲが刺さっている感じで、診てもらっても何も出てこなかった。高校時代には、プールに入って遊んでいて、背泳で浮かんでいて、カツンと電流が頭のてっぺんに来るような感じがしていた。それはその時だけだが、かなり痛かった。大学を卒業したが、就職先がないこともあって、ゆうかり園で夜間当直の仕事をしていた。その頃、キャッチボールをしていて、ボールを受け止められるが、握れなくなり、気になってゆうかり園の先生に相談した。レントゲンを撮ったが異常はなかった。肩がとっても凝る。肩甲骨の裏側の肩が重くなり、揉んでもらうと、とても気持ち良かった。仕事の関係もあり、寝ているわけにも行かず、地域の整形外科に行って、牽引と温熱の治療をしていた。しかし、それはその場かぎりで、またすぐ凝ってしまう。家に帰っても横になる時間が多くなり、頭痛・動悸が激しくなった。1991年7月にフィリピンに行った。そこで、舗装されていないガタガタ道を走っていた時、頭を強くぶつけてしまってから、足も引きずるようになり、転びやすくなった。痛みはなかった。同年11月に先生のところへ診察を受けにいったところ、神経症状を起こしているから、早く手術したほうがよいと言われた。
先生は簡単に言うが、こちらにすれば大変なこと、ショックでお先真っ暗という感じだった。まだ解脱するのは早いし(笑)、手術をやってみようかと思った。入院して、精神的に不安定になった。このことからみても、早期発見、早期治療が大切だと思う。30歳になったら、定期的に、年一回はレントゲンを撮りましょう。手術後6ヵ月病院にいて、退院すると生活環境が変わる。転んではいけないという意識があり、大変だった。最初の6カ月ぐらいは家にこもっていた。痛みも多少残っていたせいもある。痛みは長いあいだ放っておくと、回復力が弱まる。緊張を良く理解している先生にかかった方がいいと思われる。いつも言っていることだが、盲腸や内蔵の手術と違って、手術しないと死んでしまうことではないので、だから余計にその人がどう考えて、どう生きるという取り組みをするのかにかかってくる。それはやっぱり、ドクターへの信頼関係から生まれてくるものじゃないかな。自分の体を委ねられるというのは、信頼関係のなかで委ねていく形を作っていくことではないかと思っている。
二次障害としての変形性頸椎症とその手術
横浜南共済病院整形外科 大成 克弘医師
私は大学を卒業して20年くらいになります。神奈川県立のゆうかり園という病院があるわけですが、そこで脳性麻痺の方、主に子供ですが、あそこは職員の方にもアテトーゼの方がいらしゃいまして、そういう中で二次障害、首の病気というものを勉強させていただきました。かれこれ脳性麻痺の方とのつきあいは10数年になります。主治医で頑張ったつもりだが、玉井さんからのきびしいご指摘に身がつまされる思いです。患者さんが色々教えてくれる。非常に勉強になります。で、やはり我々、メスを持つ立場の人間ですが、信頼関係がないと、患者さんも「手術しよう」って言って、うんといってくれないわけですね。ですから、これからも反省しながら勉強していきたいと思っています。今日は、二次障害の頸椎の病気、首の病気についてできるだけわかりやすくお話させていただきたいと思います。私がゆうかり園に行ったのが、卒業して4年目くらいだったと思いますが、その当時はアテトーゼ型脳性麻痺の方は、「年をとるとだんだん歩けなくなるのが当たり前なんだ」と言われており、これは治しようがないと、私も教えられた。ところがよく調べてみますと、そうではない、首の病気がある。それでは子供にも、首の病気があるのではないか。ゆうかり園ではリラクゼーションというのがありまして、緊張をとる。首を前に曲げたり、いろいろなやり方があるのですが、そういった治療の中で、すごく首をいたがる子供がいまして、おかしい、これは首の骨がおかしいのではないかということで、調べたら、案の定一番目と二番目の骨がぐらぐらに動いていた。それで、脳性麻痺の患者さんの子供の首にも異常があるということがわかりまして、これは日本で誰も言ってなかったので、整形学会に報告させていただいたわけです。それでは、これからスライドを見ながら説明していきます。
私、プロレスが大好きでしてね。これ、何とかドライバーという技で、頭の骨をぶち割る技ではなくて、よく考えてみると、首に衝撃を与える技なんですね。あと、ラリアットだとかいろいろありますね。人間というのは、手足を鍛えることはできるが、首を鍛えるのは非常にむづかしい。これは人間に限らず哺乳類全般にいえることですが、首は弱点なんです。ライオンがシマウマを追っかける時、最後は首を噛む。喉元をくいちぎる。ようするに動物の首は、非常に弱いところなんですね。何故弱いのかというと、これは首のレントゲンと模型ですが、首の骨7つ並んでいる。頭は頭蓋骨という固い骨でかこわれている。そして胸は、胸骨、肋骨、背骨と、ようするにオリに入っている。首だけ何もない。これは何故ないかというと、首にカラがあったら、ロボットみたいになってしまってみにくい。それと運動性を保つためにカラがないんです。まず頭を支える運動性、手足と同じように首も非常に動きます。左右に、後ろに反ったり、前に曲げたり、それから側屈ですね。そういった運動性が非常に高いですから、「5番目の足」という表現をされることもあります。そして何よりも大事な機能・役割は、脳から続いている脊髄の神経、これを小さなきゃしゃな骨ですけれど、この骨で守っている。もう一つ上肢を懸垂している、ぶら下げているという機能があります。こういう機能が損なわれる時に、色々な症状が出てくるわけです。頭が支えられなくなった時に、首の痛みが出ますし、寝ちがいみたいに、首が動かない時がありますね。運動性が損なわれると、そのためにいろいろな病態、これ寝ちがいで首がまわらないのと、借金で首がまわらないという表現があるが、あれは頸椎の病気とは関係ありません(笑)。
それから、パンフ(脳性マヒ者の二次障害に関する報告集・第一版)にもあるが、手足がシビレたり、力が入りにくくなったり、歩きにくくなって、神経組織の庇護という役割が損なわれてくると、そういう症状が出てきます。首が悪くなって病院に来る人がどのくらいいるのかと一度調べたことがあります。だいたい15%ぐらいです。一番多いのは、やっぱり腰が痛くなった人、二番目が膝。首とか股関節は三番目になります。つまり整形外科に来る患者さんの中で、6人のうち一人は首が痛くて、あるいは肩が凝って、あるいは手がシビれて整形外科に来るわけです。その首の病気をよく調べてみますと、約2人に1人は頸椎症、これは老化現象によって骨のトゲとか、軟骨、ヘルニア、そういうものが神経に触ったりする病気です。それが2人に一人です。実は脳性麻痺の方の二次障害というのは、この頸椎症が出てくるわけです。しかも不随意のアテトーゼ運動があるために、玉井さんのかくれアテトーゼも含めて、ジストニアタイプの非常に粗大なものから、緊張の強いテンションアテトーゼ、いろいろなタイプがありますが、老化現象が、脳性マヒでない方に比べまして、アテトーゼ型脳性麻痺の方は、10歳以上はやく老化現象が首の骨に出てくるのです。普通、首の手術をするのは、平均50歳です。アテトーゼの患者さんは、それ以前に症状が起こっているのがほとんどです。そして20歳代の患者さんでも、かなり変形が進んでいる方がいらっしゃいます。これは、脊髄を輪切りにして、下からのぞいた像です。C・Tスキャンですが・・・。まん中にある黒く抜けているのが、脊髄です。脊髄は、ハート型あるいは楕円形をしているのです。脊髄のこのかっこうをよく見ていただきたいのですが、病気になりますと、三角形になっていますね。少なくとも、楕円形をしていた正常の人の脊髄に比べて、かっこうが違いますね。それから、ヘルニアというと、ブーメランみたいに、こういうふうにヘコんで変形してしまうんですね。ようするに脊椎症というのは、骨のトゲが出てきて脊髄がおかされてしうんですね。ようするに、頸椎症というのは、骨のトゲとか、あるいはほねのズレ、そういったもので神経が押されて、そのために手足の症状が出てくる。そういう病気が頸椎症性の脊髄症といいます。これは模式図ですが、簡単にいうと、椎間板がここにあります。椎間板は、だいたい20歳を過ぎますと水分が足りなくなってくるんです。そしてボソボソになります。ようするに、みずみずしさが失われて骨と骨のつなぎ目がガタガタになってくるんです。ガタガタ、ガタガタ動きだす。それと同時に、つぶれてくるわけです。椎間板がつぶれると、アンコがはみ出るように前後にふくれます。ふくれたところに沿って、骨が伸びていくわけです。その伸びた骨が悪さをするのです。それと同時に、ガタガタした動きが、時には後ろにズレたり、前にズレたりして、神経に悪影響を及ぼすわけです。これが、頸椎症性脊髄症、頸椎症による脊髄麻痺ですね。で、最後のほうになりますと、けっこう手術のスライドとか、おっかないスライドをお見せしますが、気絶しないようにしてください(笑)。アテトーゼの運動がありますと、レントゲンを正確に、正面で撮るのは難しい。まっすぐ向けといっても動いてしまう。押さえようとすればするほど、また動いてしまう。だからこのレントゲンもそっぽ向いているんですね。これは、横からのレントゲンで、よく見ると3番と4番のすきまが少しせまくなっていて、これだけだと何ともないように見えるが、けっこう骨のトゲなんかが出てくるわけですけど。C・Tスキャン、これも少しずれています。今、撮像時間がかなり短縮されまして、一回のスライスの時間がコンマ何秒というレベルになって、それでも、多少動いてしまう患者さんがいまして、多少ブレ気味なんですが、こういうものが神経に触ってきます。これが頸椎症です。さっき玉井さんがくわしく話されましたが、最初は肩こりとか、局所の痛みですね。首の痛み、肩の痛み、肩こり、局所症状です。それから神経根症状というのは、脊髄から枝分かれした一本、一本のこの神経ですね。玉井さんはこの五番目の神経がやられたわけですが、これを神経の根っこと書いて神経根といいます。そして一般的に言って神経根症状でも、筋力が低下したような時には、手術をしないとなかなか治らなくなります。脊髄症状が出てきたときも、手術をしないとなかなか治らない。局所症状だけですと、何とか、あるいは神経根症状でも、痛みだけですと何とかねばれる。というわけですが・・・。これは、脊髄造影といいまして、腰から針を指して、造影剤を入れて、首の方にザーッと流すんです。そうしますと、白く映っている部分は何でもないが、ところが3番目と4番目の骨の間の所は、造影剤の柱が途切れています。こういう所で、神経が侵されていることが、こういう検査でわかるわけですね。アテトーゼ型の脳性麻痺の患者さんを、いろいろ手術・治療で、ずっと観察していきますと、先ほどお話ししましたように、若年発症が多い。若くして症状が出てくるということ。それから症状がいったん出てくると、なかなか止まらなくて、だんだん進んでくる。保存治療というのは、手術以外の治療という意味ですが、薬・リハビリ・鍼も多少入るかもしれませんが、アテトーゼのある人に、ギブスを巻いたり、コルセットをしたりというのは土台無理なんですよ。アテトーゼの程度にもよりますけれども、固定しようとすると、余計に緊張してしまう。それから、喋るなといっても喋ってしまう。なかなか、わがままな患者さんが、大勢いますから(笑)。
そして、動いている人に牽引をやっても、牽引になりません。コルセットをしても、あごの下の皮膚がすりむけるだけなんです。一応は、保護のためにつけることも、私はやりますけど、ほとんど無効ですね。ただし、患者さんに「ああ、私は首が悪いんだな」と自覚してもらう目的はある。コルセットをつけることによって、「私は首が悪いんだから、あまり危ないことをしてはいけないんだ。」とか、そういう意味あいは多少残っているのですけれども、ほとんど本質的に病気がそれで良くなるということはあまりありません。ちょっと余談になるんですが、はじめ、何をしゃべっているかわからないが、2〜3回でわかってくる。そしてその人のパターン、アテトーゼの動きと呼吸と会話、この密接につながっている3つ。しゃべりながら動くんですね。そして息をしながら動くんです。この動きを見ながら、時には息を吸いながらしゃべる人もいますし、そしてアテトーゼの動きが、うつむくタイプと中間型と、しょっちゅう首を後ろに反るアテトーゼと、大きく三つに分かれる。その人の特徴を正確に把握して、それから治療に移らないと、大ケガをくらうわけです。ですから、いきなり外来に来まして、手術ということもありませんし、入院していただいても、すぐ手術ということはないですね。少し様子を見て、患者さんの人柄や、インテリジェンシーとかアテトーゼ運動の特徴、しゃべり方そして、何人かの患者さんに、ビデオを撮りながら、しゃべってもらったのですが、サ行、タ行、パ行は、非常に動きが増強します。あいうえおと言うのと、パピプペポと言うのでは、しゃべる間の首の動きは大きく違います。ですから「パン」と言わせてはいけないんですよ、手術後は、サ行、タ行、パ行の言葉は、できるだけしゃべらさないように。関東学院大学という、うちの病院のすぐ近くにあるラグビーで有名になってきた大学がありますね。その大学の工学部で力学実験をやっていまして、その結果が、ぼちぼち出て、今度の学会でも発表をするわけですが、かなり固定性がいいのがわかってきたんで、最近では、手術後にしゃべるなとあまり言わないことにしている。だけども、しゃべらないにこしたことはないので、パ、タ行はできるだけしゃべらせないように・・・・。
手術の話に入ります。先ほど、薬とか、索引、マッサージ、温熱、全く効かないと玉井さんが言いましたけど、そのとおりです。ほとんど効きません。効かなくて、どんどん進んで、歩けなくなってしまう患者さんには、手術を行うわけです。このT病院のK先生は、こういう手術をされたと思いますが、私はこういう手術は一切やっていません。こういう手術は、一時的に良いが、後で必ず再発するんですね。これ、どういう手術かというと、こちらが手術
、こちらが手術後です。後側の骨を削って、神経がギュッと下に押されていますね。それを後ろに逃して、ハート型にしてあげるんです。神経ふくらんでいますね。これ、もちろん私がやった患者さんですけども、アテトーゼの方ではありません。不随意の運動がない方は、こういう手術で、特に高齢の方は良くなってくれます。ただし、骨をこわし、筋肉も壊します。後ろ側の。だから支えが悪くなるんですね。支えが悪いところに持ってきて、骨がずれるんです。そして、これは慈恵医大系の先生がやられた手術ですが、やった直後は良かったが、数年してまた歩けなくなり、私のところへ来まして、レントゲン撮ると、グラグラ動いている。ズレが後ろに反ると、これだけズレて、4番と5番の間で動いて神経が麻痺してしまう。ということで、私はこういう手術はしていない。こわして、脊髄をズラすんです。どっちみち、前にメスは入れませんから、後ろ側にメスを入れて、この患者さんも、こわしてズラすんです。骨が後ろ側に残っているでしょう。形成術なんです。こういうことやってもだめなんです。私がさっきお示ししたのは、やり方、方法が違うだけなんです。ここも後ろ側の骨が違うでしょう。ここに針金が入っていたりしてるでしょう。これは前の先生のところで、こわしてズラしているんです。話を元に戻します。これは前側から軟骨でギュッと押されているわけですから、前を切って軟骨を取ってしまう。で、神経がまた復元する。脊髄がいいかっこうになって、撮ったあとグラグラですから骨をつめる。これは一般的に脳性麻痺以外の方でやられている手術ですが、非常に理にかなっている。それからこういう骨があっても、ここを削って骨を前にずらしてしまう。こういう手術もよくやります。ただし、今の人は、こんなに長い骨が入っているわけですね。こういう手術は、脳性麻痺のアテトーゼの動きのある人にはとてもできません。これは、足から取って骨を入れるわけです。はさみこむわけですが、手術をした直後に麻酔が覚めたとたんに、骨がガクッとズレてしまいます。ですから、ズレてしまうと、生命に関わる重大な状態になりますから、こういう大がかりな手術はとてもできないわけですね。千葉・京都・岡山と、色々な大学で色々な方法を始めまして、横浜市立大、うちでも1983年ぐらいから本格的に、今の術式に落ちついたわけですが、ようするに今お話しした前側に骨を植えてしまう手術というのは、移植骨がずれてしまう。あるいはつぶれたりして、非常に危ないということで、失敗例ばかりが報告された時期が1980年代の前半から後半にかけてありまして、それでこのうちのやり方になった。こういう風に、前も後ろも針金とネジでもって止めちゃう。そうすると、かなり成績がいい、安定している事が最近わかってきまして、83年から、横浜でしかやっていない方法ですが、簡単にいえば、この骨の後ろ側を針金でしばる。整形外科医はかっこいいこといますが、大工みたいなもんなんです。クギとか針金とかハンマーとかペンチとか、しょっちゅうそういうものを使って手術するわけですが、針金でもって骨をしばって、前側は前側で骨のトゲを取って、それぞれ骨をはさみ込む。そのあとでアテトーゼの動きの程度によって、クギを使ったり、使わなかったりというやり方の手術です。この人は47歳で、手術して9年経っていますがいまだに元気です。脳性麻痺の神奈川の幹事やっていまして、家のなかでは歩いていますし、痛みは完全に取れています。次の患者さんは、手術やった初めての人です。印刷の仕事やっていまして突然歩けなくなり、手が上がらなくなった。それでうちの方で、こういう針金のこういうやり方を、みんなでディスカッションしながら考えてやったのです。そうしたら非常に良くなってくれました。今でも杖なしで歩けるようになりました。1983年に手術しました。仕事も始めており、12年経っている。骨が固まるまでは、多少動くんで痛いんですよ。骨が固まるまで、だいたい3ケ月位で固まります。そうしますと、あまり違和感がなくなってくるようです。この人は、三角筋。三角筋というのは手を持ち上げる筋肉です。5というのが正常で2というのは全然上がらない状態ですね。それが非常に良くなっている。この人も川崎の人で仕事もしている。この人はアテトーゼの動きが比較的軽かったので、前側のクギとかは使わないで、後ろ側の針金だけでしばりつけて、この人はもうトラックの運転手はやめちゃったかな。運転手で手術後も大分仕事していましたけど。この人は、トラックの運転手で、現職に戻っています。玉井さんを含めて、いろいろ調べてみますと、歩けなくなった人、寝たきりになった人は、もう歩けるようになりません。車イスの人でも、一人、二人、車椅子のままの人、良くならない人もいるんですけど、こういう人、何故手術するかというと、痛みだけ取ってくれ、歩けなくてもいいから、痛みだけ取って下さいということで、手術する患者さんもいるわけで、よく調べると良くなっている人が多いようですね。痛みに関しても、全然変わらない、寝ても覚めても痛いレベルなんですが、その痛みが全然変わらない人も中にはいる。だから、全部が全部良くなるとはとてもいえないし、まず進行を止めて、少なくとも玉井さんは、今寝たきりになっていないし、歩けるし、日常生活は一人でできている。そういった意味あいで、手術を受けられる方は思って来てほしい。まあ良くなっている方がかなり多いです。骨がついたことが画期的なことで、つかなくてズレて、やり直しがしょっちゅう他の大学とか病院で報告されている。このやり方にうちがしてから、一人もないんですよ、骨がつかないことが。ただ一人クギが折れてしまった人がおりまして、予想外のことでした。それが玉井さんです。玉井さん一人だけです。玉井さんのレントゲンお見せします(図・10)。これが手術前、これが手術直後、この辺は非常に良かったのですが、起きはじめ、歩きはじめてから、ちょっと骨がズレてクギが折れているんですね。それでまあ同時に手も上がらなくなってきた。私もいろいろ考えまして、ハローベストをつけてもらった。頭にピンをつけて、ほとんどの病院では、アテトーゼの患者さんの手術にはつけています。うちではつけていませんけど。そのハローベストをつけて、これを抜いて、そうしたらぐんぐん良くなって、今のレントゲン完全に固まってます。クギは入ったままです。最近ではチタンとか、どんどん金属の材質、体に親和性のある毒性のより低い金属を使うようにしています。これが、ハローベストです。最初のころは一時使っていたが、トラブルが多すぎてとても逆に危ないということがわかりまして、最近では、よほどでないとこういうものはつけません。つけないで手術しています。で、手術すると、固める手術ですから(図・11)、ここ動かなくなってしまいますから、首の骨7つあるうちの残った所で、ストレスが集約するわけです。他のところで動こうとする。こういう機械を使わないと実際ズレてきちゃう。これ実際に、8、9年経った人でもズレない。手術した所と、そうでない所の境目の骨のところの動きが、これでうまく制動されていったん良くなった人が悪くなったということは出ていません。ようするに、手術した一つ上の所で、むしろ動きが減っているんですね。その下も減っている。これは他のやり方ですと逆に増えてしまうわけですが、ということで今のところは非常に良いと・・・・。
今の病気になる人は、たいがいはアテトーゼ運動が中間位、または伸展優位の人ですね。うつむきながら、こもったしゃべり方でいう人は、屈曲優位なんで、屈曲優位の方は、頸椎の下の方、3番目から7番目までの所までの範囲で、障害はまず起こらない。うつむくこと、屈曲優位の方は、上の方がやられる。1番と2番の間が。これも8年ぐらい前に発見しまして、いち早く学会に報告しましたけれども。こういう風に、1番目の骨が2番目の骨に対してガックリ前にズレてくるんですね。本来この骨は、ここになければならないんです。それがガクッとズレている。そのために、この幅で脊髄がギューッと圧迫されるわけです。実際にこういう一番上の所で、1番目と2番目の所でズレちゃって手術をやった患者が、今までに5人いますけれども。どういう手術をするかというと、整形外科は大工なんで、針金でしばるんですよ。そして骨をはさめて固定してしまう手術をします。そうすると3個目ぐらいで固まる。ここは動かなくなります。正常の動きを犠牲にして、異常の動きをなくしてしまう手術ですね。固定手術です。こういった首の病気に対する手術を、今まで行ってきましたけど、ただやっぱり先ほど玉井さんからお話し聞きまして、手術直後というのは、痛みの刺激でもって非常にアテトーゼの緊張が強くなるんですね。まず精神的影響が、入院しただけで不適応症候群と言うのがあるぐらい、入院しただけで、環境が変わっただけで熱がバーッと出ちゃって、退院したら熱が下がる。入院させるとまた、熱が出ちゃうという不適応症候群という病名が付いていますが、特に子供に多く、私経験しているんですけど、精神的要因によって体調がおかしくなる。手術直後は、痛み・刺激によって緊張が非常に強くなる。普段はさほどでもない人が、ものすごい緊張をするので、手術のあと、看護婦さんだけでは手に余る人で、ボランティアの方に、いつもお願いしてきたわけですが、最近では、アテトーゼの軽い方では、2−3日だけついてもらって、一週間でもう起きていただくというような、さっきの骨のしばり方、あるいは材質がどのくらい強いのか、実験をしまして、強さがだんだんわかってきまして、このぐらいまでなら大丈夫だというのがわかってきまして、医学は進歩していまして、玉井さんが手術した2年半前に比べて、今のほうが、患者さんは、手術は少し楽になっているようですけど。ただし、いくら説明しても、わからない方もなかにはいらっしゃいますし、場所が首ですから、首を切るわけですから、こちらも簡単に決められない。簡単に言うって玉井さん言いましたけど、いろいろ考えて、簡単そうに言っているだけで、じつは簡単には決めておりませんので、その辺はご理解いただきたいと思います。つたない話ですが、これで終わります。どうもありがとうございました。
質・疑・応・答・
Q:首のアテトーゼの力はものすごく強い。頸椎を手術によって固定すると、首以外の部分への影響はないのか。
A:いったん良くなった症状がまた悪くなったという人は、ない。ただし、十年二十年後どうなっているかは、これからの課題。何分手術自体は1983年からしか始まっていないので・・・。
どこかで動きを逃がしてあげることは確かに大事。一番悪いところを、玉井さんのように首の骨が7つあるうち、3ヶ所やるところを目をつぶって2ヶ所やるのがいいのか、そこもこれからの課題。本当に悪さをしているところと近未来悪さをしそうなところ、現在は両方含めて手術している。しかしアテトーゼ型脳性麻痺の二次障害、首の障害に対する手術の方法はまだ全国的に確立されていない。日本中好き勝手にしている。学会では今のところうちの病院の方法が一番いいのではないかという確信を持っている。長期の成績はわからない。固定した場合、動きが減った。動きが増えるというのは分かるが、何で減るのか分からなかった。後に、後ろ側の針金で制動していることが分かった。ただ、手術の実績は最高で十二年だ。年数年月を重ねないと何が一番いい方法なのか分からない。頸椎の固定による肩や頭蓋骨への影響はない。手術の直後、家族は言葉が聞き取りやすくなったと言う。ただし本人はしゃべりにくくなったと言う。アテトーゼは動きながら息をして、喋るからであろう。本人の自覚症状としては、息がしづらくなる。首の相対的な動きは減る。喋るときの格好は手の動きや姿勢に関わる。うつむき加減に、あるいは上を向いて。息のしづらい状態は、手術後2週間には消える。
Q:玉井さんのように急激に悪化した場合ではなく、進行が遅い人の手術の時期の判断は?
A:歩けていた人と、車椅子の人とは違う。杖などを使って歩いたり仕事をしている人は、日常生活あるいは仕事に支障をきたした場合。医学的に見れば、手が挙がらなくなるなど筋力が落ちた場合、それから歩きづらくなった場合に、手術を考える。自覚症状としては、痛みの前に痺れが先行しているはず。神経から来る痺れは、血液循環不良の場合と違ってちょっとぐらい動かしても治らないのが特徴。神経の痺れが出たら、一応首から来ているぞと認識してほしい。不安に感じたら、障害者にちゃんと理解のある専門の先生に診てもらう方がいい。手術という時、個人の考え方がある。痛みを取り除くだけを希望する人もいるし、一概には言えない。ただ、一生懸命生きてほしいと思う。そしてよくなる可能性が少しでもあるなら受けて、「受けてよかったな」と言ってくれる人もいる、全員じゃないが。
Q:医者同士で二次障害に対する問題意識を広めあう会合などはしておられるか?
A:学会に発表すること自体、こういう二次障害があるんだということ、二次障害に対する頸椎の病気でもこれくらいまで治りうるということのアピール効果があり、全国的にしている。学会で発表したり論文を書いて雑誌に掲載してもらうなど、我々にはそういうことしか協力できない。現在、7つも8つも手術の方法が出ているが、少しずつ淘汰されてきている。例えば1800年代からあった盲腸の手術というのは、今ではほとんど一つの方法になっている。年月が経つにつれて、一番いい手術方法が残るものだ。一番成績がよく、患者さんがよくなる方法が。整形外科の歴史というのは外科と比べてまだまだ浅い。学問的にまだ若く、手術の方法もまだ確立していない部分が多い。特にこのような二次障害の頸椎症ということに関しては。今、どちらの方法がいいだとか、脊椎を専門にしている医者の集まりで、色々ディスカッションすることもあるし、ディスカッションすること自体でまたアピールにつながる。ただどの先生も、ひどいアテトーゼの方についてはほとんど手をつけていない。アテトーゼの方の頸椎の手術を行っている病院はたくさんあるが、ハローベストを着けられないほどにひどい緊張のある人はそれだけで却下されてしまう。だからうちの病院では、現在は緊張の程度にかかわらず、ハローベストはつけない。
Q:日常的にストレッチ、鍼治療、マッサージを受けているが、しびれ感が解消され体が温まり食欲が湧くなどの効果がある。アテトーゼによる筋肉疲労自体が取れ、神経圧迫や骨への打撃などがかなり防げる、十年は長生きできるぞという生活実感があるのだが。
A:私は西洋医学しか学んでおらず、断定的には言えないが・・・。一般的に、筋肉の慢性疲労によって起こるものには、ぎっくり腰や寝ちがいがある。骨と骨が一か所で一時的にずれるわけだが、そのずれを治すのにはマニュピレーション、いわゆるカイロプラクティックが非常に有効だ。つまり、慢性疲労が解消されることによって、背骨がすこやかに老いていく。年をとればみんな骨が変形する。ただし、症状が出る人はごく一部、アテトーゼの人が全員手が痺れるかというと、決してそうではない。骨の出っぱりというのは、何か目的がある。骨の出っぱり同士上下でつながってくれれば、固定されて手術したのと同じ結果になるわけだ。ただそれがつながる前にずれちゃうと、神経に触っちゃう。骨同士がつながろうとするのは生体の自然な反応、生体の持つ自然治癒能力だ。体というのはバカじゃないから、必ず治そう治そうとする。それが、筋肉が慢性疲労状態だったり、あるいは寝不足、精神的なストレス、生活の乱れがあれば、自然治癒しにくくなって、ガタがくる。我々がいつも考えているのは、患者さんにちょっと手を貸して自然治癒の方向へ持っていってやる。「すこやかに年をとる」という意味では、筋肉の疲労を解消するということは、非常にいいことだろう。椎間板に加わるストレスその他は、我々が立ってあるいは座って生活する以上かかりつづけるし、そのための骨の変形は必ず起こる。ただ、症状を出さないで、または首がちょっと痛いなというくらいで収まってくれればいいわけだ。痺れや痛みが出ない人もいるし出る人もいる。そういう人達がどのような生活をしていてそうなったのか、それがこれからの課題だ。その中で、障害を持つ方がすこやかに年をとるように持っていけると思う。
(*なお、病院への電話によるお問い合わせは、外来診察にさしつかえますので、どうぞご遠慮ください。)