No.292 
姓から推察する欧米系レスラーのルーツ



21世紀研究会編「民族の世界地図」という本に、欧米人の姓の由来について書かれている文章があり、
著名な政治家、音楽家、映画関係者などの名前が列挙されているが
プロレスラー関係の名前も見つけたのでその部分を抜粋して引用したい。

「ヨーロッパでも、庶民が姓をもちいるようになったのは、
一八世紀後半から一九世紀にかけてのことだから、それほど古くからの習慣ではない。
英語圏で分かりやすいのは、カーペンター(大工)やスミス(鍛冶屋)とか、生業がそのまま姓になったものだ。
ほかに地名やあだ名に由来するものも多いが、ひときわ特徴的なのは、最後にsonのつく姓である。
sonは息子、つまりロビンソンはロビンの、ニコルソンはニコルの息子というのがもとの意味である」

「このような父祖の名前を受け継いだ姓は、印欧語族に広くみられる。
たとえば、メンデルスゾーンのゾーン(ドイツ)、ハンセンのセン(ノルウェー)はジェファーソンのソンと同系だ。
英語圏の姓でも、ノルマン系はフイッツジェラルドのフィッツ、
スコットランド系はマッキントッシュ、マクドナルドのマック(マク)が『・・・・の息子』を意味する」

「アイルランド系では、これが語頭のオになる。『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラの『オハラ』は、
『賢明なアイルランド人の末裔』という意味がある。
オニール、オブライエン、オコーナーもアイルランド系だと、すぐ分かるわけだ。
一般的には、彼らは、移住先のアメリカで、第二市民扱いの歴史をもちながらも誇り高く、
法と秩序を重んじるという性質からだろうか、ニューヨークの警官にはアイルランド系が多いという」

「コーエンもユダヤ系だが、差別を避けてアングロ風にコーンと変えた例も多い。
また、ゴールドバーグという姓も、ユダヤ人が改名した名前として知られている。
日本的にいうなら『金山』という意味になるが、ハーレムあたりでは『守銭奴!』と侮蔑的に使われる言葉でもあるのは、
ユダヤ人の長く苦しい歴史からきているのだろう」

「カウフマン(商人)、ベローズ(鐘楼の人)、ワインバーグ(ブドウ畑の人)など、一般的に、ユダヤ人がつかされたか、
つくことの多かった職業名に由来するものもある。
この他、フリードマン、グリーンバーグ、グリーンフィールド、ホフマン、キッシンジャー、
レビ、ネイサン、ロス(ドイツ語の赤)、ロスチャイルド、ルービンスタインが、一般的に、ユダヤ人の姓に多いといわれている」

「また『聖書』に由来するものには、クリストファー、クリスティー、クラーク(教会の牧師)、サイモン(シモン)、
シンプソン(シモンの息子)、ジョンソン(ヨハネの息子)などがある」

「エルサレムが三大宗教の聖地であることはすでに述べたが、
それぞれの宗教で共通の預言者とされるアブラハムの名は、
そのまま名前にも現れており、アブラハム姓はどの信者にも共通する(イスラム教徒ではイブラーヒム)。
それは最初の人名アダム、アダムス(アダムの息子)、アイザックス(イサクの息子)も同様だ」



「ハンセン」がノルウェー系の姓であることは知っていたが、
末尾のセンにson(息子)と同じ意味があるということはこの文章を読むまで知らなかった。
パット・オコーナーは1927年ニュージーランドのウェリントン市出身(註1)だそうだが、アイルランドからの移民の子孫なのだろう。
アイルランド系のオコーナーが英連邦のニュージーランド出身のプロレスラーとして世に出るというのは面白い事象である。
ゴールドバーグという姓がユダヤ系だということは日本に住んでいてはあまり理解できないと思う。
「ホフマン」という姓もユダヤ系であるというのは少々驚いた。
ホースト・ホフマンは1940年アルメニア出身だが、両親は共にドイツ人だという(註1)。
これだけでH.ホフマンをユダヤ系と断定するわけには行かないが。
それから「民族の世界地図」によるとブラック、ブラウンホワイトなど
「色」に関する姓は白人で「髪の色が黒い」などの身体的特徴によるところが多いとか。
先に出た職業が姓になった例ではテイラー(洗濯屋)などもそうか。
末尾に「スキー」が入る姓はポーランド系が多いと感じる。キニスキー、コワルスキー、リソワスキー・・・。
ジョージ・ゴーディエンコは流氏の著書「やっぱりプロレスが最強である」によれば表では’26年ウィニペグ(カナダ)生まれとなっているが、
実はモスクワ生まれのソビエト人だったそう。幼い頃両親と共にカナダに亡命しているという。
末尾「エンコ」は旧ソ連系民族に多い、今で言うなら(プロレスラーではないが)エメリヤエンコ・ヒョードルが例に挙がるか(姓と名前の表記が逆なだけ)。

かようにかつては多様な民族のにぎわう職業だったプロレスラーだが、
キャラクター性が強調される現代のプロレスから、ナショナリズムを汲み取るという作業はもはや意味を成さないのかもしれない。

個人の出目に関しては差別などデリケートな問題が多い。
この記事は決して宗教・民族間の差別を助長するものではないことを強調しておく。

註1:ザ・レスラーベスト100より。

(2006.1009)
引用:「民族の世界地図」21世紀研究会編 文藝春秋 平成12年5月
参考:ゴング5月号増刊 ザ・レスラーベスト100 昭和56年日本スポーツ出版社
やっぱりプロレスが最強である 流智美 1997年ベースボールマガジン社

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