No.15
人間対猛獣1・ユージン・サンドー対ライオン
↑ユージン・サンドー(「ザ・格闘技」小島貞二 昭和51年朝日ソノラマより)
イビジェカフェの「格闘技カフェ」で定期的に議論される話題に「人間対猛獣」がある。
多くの場合「素手では人間は猛獣には勝てない」という結論に落ち着いているようだが、
猛獣に勝つというのは古代ローマ時代に剣闘士が戦っていた時代からの人類の夢のひとつなのかもしれない。
数少ない有名な事例では元極真空手総裁の故・大山倍達の牛殺し、またゴリラとの対戦。
また同じ極真空手出身の大型黒人選手のウイリー・ウイリアムスが1976年公開の映画「地上最強のカラテPart2」において巨大な熊と対決。
さらに近年TBSのテレビ番組でプロレスラーの藤原嘉明が、
カナダにおいて捕獲されていた熊、その名も「カナディアン・デビル」と柵のなかで相対したが
熊のスピードについていけず倒れた拍子に肩を痛めたところでストップになっている。
ここでは作為的にしろ偶発的にしろ実際に人間が猛獣と戦った記録を筆者の蔵書の中から紹介したいと思う。
ユージン・サンドーはドイツの怪力男(註1)。元は病弱な少年だったが自ら鉄アレイによる体力養成法を考案、
超人的な怪力男となる。
この彼の成長過程と鉄アレーの使用法が記載された本が日本でも出版されているそうだ(註2)。
19世紀の末にサーカスなどで次々にアイディア豊富な怪力ショーを披露、
詳しい日時は不明だがライオンとの対決もその時期に行われたらしい。
場所はアメリカのサンフランシスコ。
サーカスが熊とライオンの対決を発表したところ市民から残酷だとの声が上がり警察もストップをかけた。
困ったサーカスのためにサンドーが名乗りを上げた。当日の客は2万人(!)だそうである。
以下、「」内は小島貞二氏著の「ザ・格闘技」より原文のまま抜粋。
「むろん、危険防止のため、ライオンの爪には手袋をはめ、牙には口輪をはめてやることになり、その作業のために、馴れた猛獣使いが数人で数時間を要した。」
「やがて直径20メートルほどの円形の檻が運び出され、別の檻からライオンが入り、こちらからサンドーが入る。
念のためベテランのライオン使いがサンドーに添う。サンドーは肉ジュバンを着用、下はタイツ。」
「さて、ライオンの目をにらみつけながら構えるサンドー。
ライオンがジャンプ一番、とびかかろうとしてその体勢に入る瞬間、身をかがめて飛び込んだ。
とびかかられる前にこちらからとび込んだのだ。右で首をとらえ、左で胴を抱くように肩にかつぎあげて、グイグイ締め上げた。
『ウオーッ』という怒りの声、はげしい四肢のゆさぶりにサンドーの胸のあたりがかきむしられる。
それを我慢して、しばらく絞めておいて、床におもむろにたたきつけた。」
「『注意しろよ、サンドー』。ライオン使いが叫ぶ。まだ勝負は終わったわけではない。ライオンの怒りの二の矢がこわいのだ。
にらみ合い数秒、ライオンは前肢をたたきつけるように突進して来た。まともに食えば人間などひとたまりもない。
紙一重で頭をすくめると、サンドーはすべり込むように、ライオンの腹の下に入り、頭と胸をすりつけて抱えた。
足を胴に巻いて、グイグイと絞めにかかる。苦しまぎれにライオンは振りおとそうとする。
その四肢のもがきが、サンドーの背中をかきむしる。
痛さをこらえて渾身の力で締め続ける。二分、三分・・・・・抵抗の弱まったのを見すまして、サンドーはまたライオンをほうりだした。」
「怒涛のような声援がテントの屋根に吹きつける。『もういい、サンドー、早く檻を出ろッ』と、ライオン使いが叫ぶ。
怒るライオンのすごさを百も承知の上での忠告だ。
しかし、サンドーにはもうひとつの演出があった。わざとライオンに背を向け、観客に向かってXの字のサインを出した。
そのときだ。あらしのようにライオンが、背後からとびかかって来たのだ。背を丸めて巻き込むような背負い投げ。
自分の力にのって、ライオンはそのまま弧を描いて、大きく飛んで、檻にはげしくはずんでいた。」
「もう次ぎの攻撃がないのを見すまして、サンドーは悠然と檻を出た。
沸きあがる歓声のなかにスックとたったサンドーの肉ジュバンもタイツも裂け、破れて、
幾条かの血が体のあちこちから糸を引いていた。
でも、別に、医者を必要とするほどの傷は、何もなかった。」
「ライオンに勝った男、ユージン・サンドーは、怪力ばかりでなく、格闘技のほうも、なかなかの豪の者であったことを証明した。」
野生ではなく調教されたサーカスのライオンであることを割り引いても、本物のライオンと肉弾戦をおこなったサンドーの話は痛快だ。
(2003・0705)
参考、引用:小島貞二著「ザ・格闘技」中、「ライオンに勝った男」昭和51年12月、朝日ソノラマ刊
(註1)ベルギー人説も有り。
(註2)「サンダウ体力養成法」造士会編:明治三十三年七月
「鉄亜鈴体力養成法」中央体操唱歌会編:明治三十六年一月
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