No.161
谷津惨敗の日本デビュー戦。
新日本プロレス「3大スーパーファイト(創立10周年記念興行第1弾)」

新日本プロレス
3大スーパーファイト(創立10周年記念興行第1弾)
1981年6月24日 東京・蔵前国技館
同行者=当時付き合っていた女



【二転三転したカード】
この年の5月8日、川崎体育館の新日本大会に突如登場して衝撃のIWGP参戦表明をしたA.T.ブッチャーの新日本初参戦。
当初「3大スーパーファイト」はチケットに印刷されているように
猪木&ダスティ・ローデス組対ハンセン&タイガー・ジェット・シン組、
ブッチャー対キラー・カーン、そして藤波対タイガー戸口が予定されていたらしい。
ところがローデスが6月24日のフロリダ州マイアミでのNWA世界王座挑戦を理由?に出場をキャンセル(註1)。
新日本側はローデスのピンチヒッターにニューヨークWWFの若き帝王ボブ・バックランドを予定。
しかし猪木案で前年12月MSGでデビュー戦を飾ってWWF地区で海外武者修行をしていた谷津嘉章が浮上。
猪木&谷津組対ハンセン&シン組に決まったように思われたが
今度はシンが出場しないことが判明(新日本のブッチャー引き抜きの影響で全日本に転出、
同年7月の全日本熊谷大会に突如乱入してそののち全日本参戦)。
その結果カードは猪木&谷津組対ハンセン&ブッチャー組、キラー・カーン対タイガー戸口となり、
決定済みだったタイガーマスクの試合が繰り上がり対戦相手がいなくなった藤波が割を食った格好となった。

【ドン・ウィルソン-アシュラフ・タイ】
「マーシャルアーツ世界ライトヘビー級タイトルマッチ」。
ドン・ウィルソンはのちドン・星野・ウィルソンと名乗るアメリカ・マーシャルアーツのライトヘビー級チャンピオン。
母が群馬県出身の日本人なので東洋風の顔立ち。185センチ87キロ。
この後全日本キックの後楽園大会テレビマッチで強豪モーリス・スミスと対戦したことも。
「ブラッドフィスト」「リング・オブ・ファイア」などのアメリカ製空手アクション映画にも主演。

アシュラフ・タイは
「全パキスタン・オープン空手チャンピオン。
カラチに本部を置くバンドー空手の総帥で門下生は1万8千人を超す。
黒帯4段。
1975、76、79年のオープン選手権で優勝し名実共にパキスタンの空手の第1人者。
海外遠征の経験も多く、セイロン(現在のスリランカ)ではM.D.シルバー5段、
バンコクではムエタイ(タイ式ボクシング)のボン・ヤン・スワット、
マレーシアではスタンレー・ジョセフ4段を破り、門下生を率いてインドにも遠征した。
(中略)
32歳。空手歴はアマを通じて20年。プロの戦績は国際試合を含めて35戦=32勝(9KO)1敗2引き分け。
新日本プロレスと提携するパキスタン国際レスリング協会ノスラット・アジム会長の斡旋で今回初来日、
アメリカのプロ空手(マーシャルアーツ)と初の手合わせが実現する。バンドー空手は実戦空手。」(当日のパンフレットの選手紹介から抜粋)
と興味ある戦績。しかし176センチ76キロは、ドン星野と身長で約10センチ、体重で約10キロ違うぞ。
試合は・・・黒い道着のアシュラフのパンチは横殴りでこぶしの部分が正確にヒットしない打ち方。思うにグローブ戦は初体験だったのではないか。
2ラウンド横蹴りの連発で圧倒してからパンチで2度のダウンを取ったドンのあっけないノックアウト勝ち。
顔面なしの素手だったらまた別の結果になったかもしれない。

【長州-木村健】
序盤から木村のパイルドライバーが炸裂。
張り手の応酬から長州豪快なボディスラム。
独特の高角度バックドロップで決着。

【藤波-キャット】
この大会はゴールデンタイム生中継だったがビデオ録画して後日見てみるとこの試合から番組が始まっていて驚いた
(前の試合、長州と木村が張り手合戦してるところがちょうど番組のオープニング)。
実況放送では特別番組を藤波の試合を含めて「4大マッチ」と表現していた。
キャットの試合をテレビで見たなんて、このぐらいしか記憶にない。
藤波とテレビとの何らかの関係からだろうが、長州と木村のIWGPアジア・ゾーン予選を差し置いてのこの試合順に当時の格の差を感じる。
試合は藤波がグランドテクニックでキャットを圧倒、
エルボーで場外に落としてからドラゴンロケット炸裂、ロープ越しのブレンバスターからフォール勝ち。

【タイガーマスク-ビジャーノV】
ビジャーノは鳥の羽飾りがたくさんついたアステカ王朝風の豪華な被り物を着用しての入場。華やかな雰囲気。
タイガー対ルチャドールの対決はやや噛み合わない部分もあったが、中盤のサーフボードの攻防はなかなか。
ビジャーノの「リャッ」と聞こえる独特の掛け声が場内に響き渡る。
タイガー、デビュー戦に続いてサマーソルトを披露。
最後はリング下のビジャーノにタイガーがロープ最上段からのダイビングボディアタックを決めてリングアウト勝ち。

【キラー・カーン-タイガー戸口】
打って変わって今度は日本人大型選手同士の試合。
タイガー戸口は3色に星のタイツ。入場時花道で右手を大きく上げて意味不明のロングホーン。
戸口試合前マイクでカーンを挑発、しかも英語で。何で日本で日本人同士の試合(ニセ韓国人対ニセモンゴリアンだが)で英語?
タイガーマスクのスピーディーな試合の後だと大型同士の試合はいかにもスローに見えていまいち。
戸口の咽喉への親指突きでカーンは苦しそうにつばをたらす。
終盤流血したカーンを戸口バックドロップで追い込むも、M高橋レフェリーが倒れている間にカーンが急所攻撃。
3カウント入ったがサブの柴田レフェリーのアピールによりカーンの反則負け。
試合後も戸口の英語のアピールが続く、何で英語?
戸口は新日本初登場だし、お互い負けて傷をつけることのできない難しいマッチーメーク。
この二人はのちコンビを組み、暮れのタッグ・リーグ戦などで暴れまくることになる。

【猪木、谷津-ハンセン、ブッチャー】
ビデオ録画した中継では番組の初めに猪木と谷津が映って、緊張かやや青白い表情の谷津が
「猪木さんもいることだし、大船に乗った気分で、あと、新兵器も使いたいと思います」
などとインタビューに答えていた。
ブッチャーの入場、花束を客席に放り投げて気合。
猪木・谷津組には元プロボクシング世界王者のファイティング原田氏より花束が。

試合開始前、猪木が谷津に気合一発、の張り手。
「ウォオオオオオオ!」奇声をあげた谷津が先発、ゴング。
谷津、ハンセンに先制攻撃、アイリッシュホイップ、ハンマースルーからショルダースルーでハンセンを投げる。
そしてドロップキック連発、これは決まった。
しかしすぐハンセンが反撃。パンチ、膝蹴りで谷津をダウンさせる。
倒れた谷津、膝立ちの体制からハンセンのボディに頭突きを試みるが、これは全く通じない。
逆にハンセンが上から谷津の背中や頭部にパンチ、エルボーの乱打。
替わったブッチャーが地獄突き、ヘッドバット。
谷津、やっとのことで猪木とタッチをするがレフェリーのトルコがこれを見落とし、タッチ認められず。
猪木は「何でだよ」って表情、谷津の受難は続く。
やっと日本側のタッチが認められ、猪木登場。
しかしブッチャーの地獄突き、ヘッドバットを食らった後秘密兵器のブレンバスターで投げられてしまう。
8・26オールスター戦の逆です。
猪木、アリキックで脱出すると谷津再登場。しかし外人組の圧倒的な圧力の前に全く通じない。
場外戦でいたぶられる谷津、流血。
ハンセンがロープに谷津を振った、
谷津の首をねじ切らんばかりのウエスタンラリアートが決まって1本目はハンセンのフォール勝ち。

2本目が始まったが、ハンセンとブッチャーは戦いの場を場外に移して谷津に集中攻撃。
押さえ付けたり首を絞めながら頭部にパンチ、エルボー(猪木はリング上に避難)。
中継(註2)ではすでに額から流血し両外人に痛めつけられる谷津の「ぐえぇ、ぐえぇ」といううめき声が聞こえる。
3本目は水の入ったビール瓶を持ち出して反撃した猪木が反則を取られた。
2本目からは混乱してゴングの音はかすかに聞こえたがいつ始まっていつ終わったかもわからない乱戦。
しかし日本デビュー戦でこれから売り出しにかかるはずの谷津が
なぜいいところなしでリンチまがいにこてんぱんにされなければならなかったのか。
推測だが何らかの問題があった谷津への制裁マッチだった可能性も充分だろう、猪木全然試合していないし。

(1984年6月頃のノートを元に再構成、2004.0923)

註1:ダスティ・ローデスのNWA世界王座挑戦試合は
6月24日マイアミから急遽6月21日、ジョージア州アトランタ・オムニセンターに変更されて行われ、
16分55秒フライング・ボディーアタックからの体固めで王者H.レイスからピンフォール勝ちを奪い、
1年9ヶ月ぶりのNWA世界王座返り咲きに成功した。

註2:生中継は1本目終了時点で放送が終わり、2本目以降は金曜のレギュラー放送で録画放送。

新日本プロレス
「3大スーパーファイト(創立10周年記念興行第1弾)」
1981(昭和56)年6月24日 東京・蔵前国技館
観衆1万1000人

1.20分1本勝負
○ジョージ高野(片エビ固め、10:13)前田明●

2.20分1本勝負
○星野勘太郎、永源遙(逆さ押さえ込み、11:52)荒川真、藤原喜明●

3.マーシャルアーツ世界ライトヘビー級選手権(2分6R)
○ドン・ウィルソン(KO2R1:55)アシュラフ・タイ●
*ウィルソン2度目の防衛。レフェリー鈴木正文。

4.IWGPアジア・ゾーン予選リーグ30分1本勝負
○長州力(体固め、6:56)木村健吾●

5.30分1本勝負
○藤波辰己(体固め、4:39)ブラック・キャット●

6.60分1本勝負
○タイガーマスク(リングアウト、15:55)ビジャーノV●

7.60分1本勝負
○タイガー戸口(反則、9:45)キラー・カーン●

8.60分3本勝負
○S.ハンセン、A.T.ブッチャー(2−1)A.猪木、谷津嘉章●
1.○ハンセン(体固め、9:06)谷津●
2.○日本組(反則、0:38)外人組●
3.○外人組(反則、1:16)日本組●
*レフェリー、ユセフ・トルコ。

生観戦記1981に戻る
SAMEDASU扉に戻る

web拍手 by FC2