No.174
ハンセン新日ファンに惜別のテンガロンハット投げ。新日本プロレス「第2回MSGタッグリーグ戦第18戦」

1981(昭和56)年12月8日 新日本プロレス
「第2回MSGタッグリーグ戦第18戦」
東京・蔵前国技館
同行者=なし



前回の蔵前大会(11月5日)でカードが発表されたスペシャルマッチが行われた大会、タッグリーグ公式戦はゼロ。

【高野俊‐新倉】
高野弟のデビュー戦。
すごく身長が高いがまだ肉がついていない高野。
新倉ラフ攻撃で攻め立てるが高野がロープの反動を利用した豪快なドロップキック。
蹴ってから足がもう一伸びしたような印象、そのままクラッチして短時間決着でフォール勝ち。
タバスコ1年分を示す大きなパネルが渡された。
高野弟はこの後猪木と金平ボクシング・ジム会長のラインによる日本人ヘビー級ボクサー育成のプランに一時期参加するが
金平会長の「毒物オレンジ疑惑」によりプラン自体がうやむやになりのちプロレスに復帰する。

【タイガー‐カネック】
メキシカンの中では大型のカネックを相手に、タイガーがどのくらいやれるか注目されたカード。
序盤カネックのラフ攻撃でタイガー足を負傷。
カネック、ロメロスペシャル、ランニング・ネックブリーカードロップで攻撃。
それでも頑張るタイガー、場外のカネックに助走をつけてトペを敢行、しかしカネック身を沈めてかわす構え。
タイガー、そこからロープをつかんで揃えた両足を大きく振って着地すると、すばやくコーナーポスト最上段に登り
(レフェリーの小鉄とぶつかりそうになった)プランチャー、これは命中。
その後場外戦になり両者リングアウト。負傷しながらもタイガー辛くも引き分ける。
それにしてもロープを使ったトペの方向変換には驚いた、この時まで一度も見たことがない動き。
改めてタイガーマスクの潜在能力の高さを認識した一戦。

【マードック、ローデス‐木村、戸口】
ジ・アウトローズ復活!
といっても特に感慨などなし。
実際はこのとき見たのが初だし。
木村の鉄柱攻撃でローデス流血。
しかし逆襲のローデス、木村にエルボードロップ。
寝転んでローデスのエルボーを受けるために身構える木村が
「気をつけ」よろしく両腕をしっかり揃えているのが印象的。

【アンドレ‐カーン】
「足折り」の因縁がある両者のカード。
いわばWWWF地区直輸入カードか。
キラー・カーンがアンドレに対して恐怖心を持っているような試合運びが印象的。
試合はアンドレが人間風車などを見せ、日本人としてはスーパーヘビー級のカーンに対して存分にプロレスをやり、
最後はヒップ・プレスからピンフォール勝ち。

【猪木、藤波‐ハンセン、ボック】
新日本の師弟コンビが、アメリカとヨーロッパの強豪の合体という異色チームを迎え撃ったタッグマッチ。
選手紹介のコールの時、ロングホーンと「ウィーッ!」という雄叫びで答えたスタン・ハンセンは
いつもと違う黒いテンガロン・ハットを思い切りよく観客席に投げ入れた!
驚く観客の歓声の中、ハンセンはくるくると回転しながら飛んで行くテンガロン・ハットの軌跡を眺めていた・・・。

試合は欧米最強コンビが殊の外強く、パワーで日本側を圧倒。
コンビネーションが見られたのはカウンターの合体エルボーぐらいだったが
(この時ボックの動きがたどたどしかった)タッチのタイミングがよくて攻撃が切れ目ない。
おそらくハンセンのリードが良かったのだろう、ヨーロッパで試合をしているボックがタッグ慣れなどしているわけがないからだ。
そのボックだが、10分前後から相当疲労が出たようで汗の量も多い。
ゼスチャーを見ると余裕見せているようだが、実際はその逆なのだろう。
しかし最後はボックの人間風車で藤波がフォールされて終了。
猪木とボックの絡みは少なく、両者の対決は次年に持ち越された。

2日後の10日、大阪大会においてタッグリーグ戦の優勝戦が行われ、
リーグ戦1位のアンドレ、レネ・グレイ組が待ち構える中、
2位同点の猪木、藤波組とハンセン、マードックのロングホーンズが決勝戦進出を賭けて対戦。
一旦は両者リングアウトになったが延長戦。
再試合では3分25秒、マードックが藤波にブレンバスターを仕掛けて持ち上げたところに
入ってきた猪木のドロップキックが決まり、
藤波の体に押しつぶされるようになったマードックがピンフォールされ猪木組の勝利。
テレビでは倒れた反動で一旦離れた藤波の体をマードックが引っ張り込んで自らプレスさせているように見えた。
決勝戦アンドレ、レネ・グレイ組対猪木、藤波組はアンドレがコーナー最上段からのD.ドライブ、カウンターの18文ハイキック、
そしてジャイアントプレスで藤波を押さえ込んでアンドレ組の勝利。ミスター高橋は躊躇せず3カウントを入れ日本側は優勝を逸した。
アンドレはともかく超伏兵のグレイがいるチームがよく優勝できるもんだと驚いた、その時は。

話はまだ続く。その3日後13日、全日本プロレスの「’81世界最強タッグ決定リーグ戦」蔵前大会に
B.ブロディ、J.スヌーカ組のセコンドとして姿を現わした私服の「テンガロン・ハットの大男」は何とハンセン(註1)。
試合中にテリー・ファンクに私服姿のままウエスタン・ラリアットを叩き込みブロディ組の優勝に加担。
終了後ピンフォールされたドリー・ファンク・ジュニアをウエスタンブーツで蹴りまくった。
そして救出に入った馬場・鶴田と流血の番外戦!
テレビで見たが、あまりにも衝撃的な映像だった。
そして翌年ハンセンは戦場を全日本に移し、馬場、鶴田、ファンクスらと対戦することとなった。
ブッチャーの移籍に端を発した新日本と全日本の「選手引き抜き合戦」に決着をつけた、
馬場の9回裏逆転満塁ホームランといえるハンセン獲得であった。
新日本は全日本に選手引抜に対する協約を提案し(註2)、ここに引き抜き問題は終息した。
新日本大阪大会の優勝戦は出て行くハンセンに勝ち逃げを許さず、残留するアンドレに優勝をプレゼントする、という図式だったようだ。
それにしても新日本蔵前でのハンセンの、あの黒いテンガロン・ハットを投げた時の胸中は。
あれは本当にハンセンの、新日本を見に来ているファンへの惜別のパフォーマンスだったのだ。
「SAYONARA・・・」
この文章を書いていた筆者はなぜか映画「人間の証明」のあのジョー山中の歌を思い出した・・・。
あのくるくる回りながら飛んでいった帽子のことは、永遠に忘れないだろう。

(2005.0102)

註1:13日蔵前大会の前日の横須賀大会にもハンセンは全日本の会場に来場していたそう。
註2:事実上新日本の白旗宣言であろう、馬場の政治力の勝利である。

1981(昭和56)年12月8日 新日本プロレス
「第2回MSGタッグリーグ戦第18戦」
東京・蔵前国技館
観衆1万1500人

1.20分1本勝負
○前田明(体固め、7:50)仲野信市●

2.20分1本勝負
○藤原喜明(体固め、6:35)荒川真●

3.20分1本勝負
○高野俊二(エビ固め、1:38)新倉史祐●
*高野俊二デビュー戦。勝利者賞としてタバスコ1年分を獲得。

4.30分1本勝負
○S.マキナ(体固め、7:07)G高野

5.30分1本勝負
○長州力、谷津嘉章(体固め、12:01)木村健吾、寺西勇●

6.30分1本勝負
▲坂口征二(両者リングアウト、8:04)B.アレン▲

7.45分1本勝負
▲タイガーマスク(両者リングアウト、8:04)カネック▲

8.60分1本勝負
○D.マードック、D.ローデス(1−0)R木村、T戸口●
外人組(反則勝ち、10:41)日本組
*フェンスアウト。

9.60分1本勝負
○A.T.ジャイアント(体固め、8:16)K.カーン●

10.60分1本勝負
○R.ボック、S.ハンセン(体固め、12:39)A猪木、藤波辰巳●

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