No.128
暴動、蔵前破壊!新日本プロレス「’84IWGP最終戦」(第2回IWGP優勝戦)

新日本プロレス「’84IWGP最終戦」
1984(昭和59)年6月14日 東京・蔵前国技館
同行者=同級生2名



試合結果に納得しない観客の暴動で蔵前国技館が破壊された第2回IWGP優勝戦である。

猪木は前年の第1回IWGP優勝戦において
ハルク・ホーガンのアックス・ボンバーによりよもやの場外ノックアウト負けを喫し悲願の優勝を逸した。
その次のシリーズ猪木は全休したがその間に新日本内でクーデターが勃発。
一部首脳陣が退陣する騒動へと発展。
また同時期当時最大のスーパースターだった初代タイガーマスクが引退表明。
「新日本プロレスブーム」という言葉まで使われた団体の人気は一気に下落した。

そういうこともあってこの年の大会の猪木の優勝はもはや必定と信じられていた。
第2回の今回は前年優勝者のホーガンはシード扱いされ、リーグ戦最高得点者の猪木と優勝を争うという形式がとられていた。
当日の会場。
第5試合、オットー・ワンツが得意技のスティーム・ローラー(M.井上が得意としていたサマーソルト・ドロップ)で
藤原からフィニッシュを奪ったあたりから見始める。
第7試合、長州力のラリアートがパテラの喉元に決まってセミファイナルが終わった。
長州、斉藤ら維新軍団がリング下に陣取ってしばらくすると優勝戦を戦う猪木とホーガンが入場してきた。
ホーガンはリングインするなり相手コーナーの猪木に詰め寄ってプレッシャーをかけるような態度を見せた。
しかし逆に猪木はホーガンの迫力に気おされているように見えた、連戦の疲れか体調も悪そうだった。
残念ながら自分には両者の「格」が逆転していると思えた。
猪木にはホーガンの後ろに「WWF」が見えたのかもしれない。
場内は異様な雰囲気になった。殺気が充満していた。ホーガン憎し、という雰囲気だった。
ホーガン本人もそれは感じているようで、少し戸惑うような表情を見せていた。
おそらくその時蔵前国技館の観客のほぼ全員が猪木の勝利を祈っていたのではないか。
「猪木の勝利をこの目で見たい」という観客の願望はすでにこの時点で底知れないエネルギーを場内にたぎらせていた。

試合はいつ果てるともなく続いた。
前半は猪木優勢もブレンバスターからホーガンが巧みに場外戦に持ち込み両者リングアウト。
すると観客の発する物凄い延長コールが場内を揺るがした。
「場内を揺るがした」という表現を使ったがそれほどまでの一種異様なエネルギーがあった。
猪木の勝利を見ないうちは帰らない、そんな雰囲気の殺気だった延長コールだった。
ホーガンはこの試合を前年優勝の自分の王座防衛戦だと認識していたようで、
ここで王座防衛が成功したようなゼスチャーを見せた。
猪木側はこの試合は優勝戦であるから必ず勝敗を決定しなければならない
―いや猪木を勝たせなければならないという意識がありあり(観客も当然そう思っている)。
流れはここから妙な展開になる。
観客の延長コールが現実のものとなった。
レフェリーおよび審判団が協議。そしてマイク。
「両選手の希望により、延長戦を行います!」
しかしどこが両選手の希望なんだろうか、ホーガンの態度は明らかに「希望していない」!

「NO!」自分の王座防衛を主張して叫ぶホーガン。
大きなゼスチャーを駆使して抗議するも殺気立った場内の雰囲気では通るはずもなく、程なく時間無制限の延長戦が開始された。
しかし延長戦が開始されるとすぐ猪木が強引な足4の字固めを仕掛けた。
両者リング上を転がる、エプロンに両者のからだがはみ出してロープブレイクになっても猪木は足を解こうとしない。
両者のからだがエプロンにあったためこれで両者カウントアウトになり
またしても「両者の希望」により再延長戦が行われる、と場内に発表された。

再延長戦のゴングが鳴った。
猪木はだいぶ体力を消耗しているようだった。
逆に延長戦を望んでいるわけでもないホーガンは、汗はかいてはいるもののまだまだ覇気はあるし元気いっぱいの様子。
ホーガンが力任せに猪木をロープに押し込んだ。
うしろの逃げ場を失って身動きが取れない猪木の顔面めがけて至近距離から丸太のような上腕でアックスボンバー!
ホーガンが体を離すと猪木はずるずると崩れ落ちロープ際で長々と伸びてしまった。
悲鳴が場内のあちこちから聞こえる。

ホーガンが倒れている猪木を引きずり起こす。
ロープに猪木を振る。
助走をつけてカウンターのアックスボンバー!
レフェリーがカウントを取る。
猪木の足がロープに伸びる、カウント2!
ため息がもれる観客席。
思わず手に力がこもる。
ホーガン、猪木を肩に担ぎ上げる。エアプレーン・スピンの体勢だ。
近づいたレフェリーが巻き込まれ倒れ、猪木とホーガンは場外へ落ちる。
リング下、立ち上がったホーガンが走った。
ふらふらしている猪木に場外でアックスボンバー。
猪木まともに後方に吹っ飛びコーナーの金具に後頭部をぶつける。
一方的な試合展開に場内また悲鳴。

その時だった。
リングサイドにいた試合に無関係の長州力が突っ込んできて猪木にラリアート!
対峙したホーガンにもラリアート!ホーガンもアックスで迎え撃った!相討ち!
猪木はその間に離れた場所から新日本のセコンドに押し上げられてリングに生還。
蘇生したレフェリーがカウントを数える!
ホーガンはリングに戻れない!
リングアウト、猪木の勝利の裁定。 IWGP、優勝だ。

しかし、いくら猪木の勝利を期待しているとはいっても団体ぐるみでホーガンから勝ちをもぎ取ったようなやり方(註1)に
観客が納得するわけがなかった。
後方の座席からすぐさま団体客?の「金返せコール」が始まった。
そして観客は総立ちになった。
怒りの群集パワーが大爆発した。

座布団がリング上に投げ込まれる中、猪木がIWGPのベルトを肩にかけたまま無言で退場してゆく。
リング上怒りの表情で暴れまわるホーガン、しかし彼もしばらくして姿を消した。
リングに投げ込まれる座布団の嵐は止まらない。
表彰式が中止された、若手選手たちが勝利者・猪木に渡されるはずのトロフィーを片付けてゆく。
リングの上は投げ込まれた座布団や紙コップその他がうず高く堆積し、まるでゴミ捨て場のようだ。
「長州を出せー!」
「金返せー!」
「もう一度やれー!」
不甲斐ないファイトをした猪木、乱入で試合をぶち壊した長州、
そして不可解な裁定、延長戦を繰り返したレフェリー、審判団、ひいては団体全体に対する怒り、憤りが館内に充満していた。

観客はさじき席の板張りの床を踏み鳴らし始めた。
異様な音響効果。
皆が真似して床を踏み鳴らし始める。
照明が消され始めた。
しかし巨大なエネルギー、物凄い熱気が場内を支配していてボルテージが下がる気配もない。
場外フェンスがきしむ音が聞こえた。
リングサイドの観客がフェンスを破壊し始めた。
それを制止に入った係員や若手選手と小競り合いが始まった。
入場口の上にある大時計には、すでに針がない。
向正面の二階席のせり出しに掛けられた
「‘84 IWGP決勝戦 ハルク・ホーガンvsアントニオ猪木」
と大書された看板が真ん中から真っ二つに折れてぶら下がった。
二階席の客が破壊したのだろう、この大会を象徴する衝撃的なシーンだった。

騒ぎを収拾するためかスーツに着替えた猪木がリングにあがった。
この時は歓声が上がった。しかし猪木は特にコメントするわけでもなく手を振って中途半端な態度でリングを降りた。
いつもの威勢のいい猪木を期待した観客は肩透かしをされた格好で、逆に怒りが増長した。

坂口がリングに上がりマイクを取った(註2)。
「判定に納得がいかないのはわかりますが試合は終わりました、どうかお帰りください」
そのような内容だったと記憶している。

田中リングアナは涙の謝罪(註3)。
しかしまったく納得しない観客。
「テロリスト」藤原喜明がエプロンに上がりマイクを持った。
「俺が長州を殺る!いいか!俺が長州を殺る!」
少しだけ歓声が上がったが「今やれー!今すぐやれー!」の声にかき消される。
2階席で白煙が上がった。一瞬放火かと思ったが、添え付けの消火器が破壊されたようだった。
このあたりで友人と帰った。10時ごろだったと記憶している。

思い出してみても当日の観客のパワーを感じさせる。
すごい体験をしたと思う。
この先何があっても一生忘れないだろう。
(1984年7月ごろのノートを元に再構成、2004・0403)

(註1)ある意味、チームプレーといえなくもないが。
(註2)この辺、誰が先だったか記憶が薄れて順不同。
(註3)コメントの記憶なし、ひたすら謝っていたような記憶、ノートにも記述なし。

新日本プロレス「’84IWGP最終戦」
1984(昭和59)年6月14日 東京・蔵前国技館
観衆1万3千人(超満員)

1.15分1本勝負
○荒川(原爆固め、8:30)仲野●

2.20分1本勝負
○クロネコ(体固め、12:19)小杉●

3.20分1本勝負
○星野(体固め、7:16)栗栖●

4.20分1本勝負
○A.浜口、小林邦(体固め、11:05)高田、保永●

5.30分1本勝負
○O.ワンツ、B.J.クイン(体固め、10:58)木戸、藤原●

6.45分1本勝負
○A.T.ジャイアント、M.スーパースター(体固め、7:59)藤波、坂口●

7. 45分1本勝負
○長州、M.斉藤、谷津(体固め、10:45)D.マードック、A.アドニス、K.パテラ●

8. IWGP優勝戦60分1本勝負
▲H.ホーガン(両者リングアウト、17:15)A.猪木▲

延長戦・時間無制限1本勝負
▲H.ホーガン(両者エプロンカウントアウト、2:13)A.猪木▲

再延長戦・時間無制限1本勝負
○A.猪木(リングアウト、3:11)H.ホーガン●
*猪木が第2代IWGP王者となる。

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