No.293
ジーン・タニーのコブシ鍛錬法&プロレスラーのカリフラワー/人体硬化と塩

    

1920年代前後、19歳で海兵隊に志願したジーン・タニーはすぐにアメリカ師団のボクシングライトヘビー級王者になったそうだ。
そしてトレドでジャック・デンプシーが世界ヘビー級王者になったニュースを聞いて、彼を倒すことを目標とする。
ところが・・・

「しかし、じつはタニーには、ボクサーとしての致命的なハンディキャップがあったのだ。
からだの割合には小さな手だといわれたが、その両拳がすぐに痛んでしまうのだ」
(「凄くて愉快な拳豪たち」より)

タニーの手は小さく、ボクサーとしては不向きであったようだ。だがタニーはコブシを強化するためにいろいろな方法を実践した。

「ふつうなら、こんな欠陥コブシではリング生活をあきらめるところだが、かれはあきらめない。
拳を丈夫にするには一番だといわれる塩漬牛肉の汁に、毎日両のコブシを1時間ずつひたすのを数年間もつづけた。
また、カナダで木材かつぎをやったり、メイン州では石炭のショベル働きをした。
そのほか、ゴムマリを左右の拳にかわるがわる握りしめて、コブシの強化をはかった。
この人の特長は、なんにでも長期計画を立てることで、デンプシー打倒プランにも7年をあてている」
(同書より)

ということで拳の強化に成功したのかタニーは1926年にデンプシーを降して見事世界ヘビー級王者となる。
さて、彼の拳強化法であるが、「塩漬牛肉の汁」に拳をひたすのが「拳を丈夫にするには一番」だといわれているというのが興味を引く。
何だか香港映画「片腕ドラゴン」の鍛錬法や格闘漫画の「毒手」を連想させる。
現在でもボクサーの間では行われているのだろうか?
塩分は人体を硬化させる作用があるのか?

そう思っていたらあることを思い出した。
元新日本プロレスのレフェリー・ミスター高橋の著書「プロレス、至近距離の真実」を引っ張り出す。

「プロレスの世界の“耳がわく”という表現をご存知だろうか。
耳のあたりを極められても痛みを感じなくなるまで、簡単にいえば、耳を潰してしまうのだ。
いったん潰して固まってしまえば、あとは楽なのだが、固まるまでの痛みがひどい。
(註:著者のミスター高橋)も10代のときに体験したが、注射器で溜まった血を抜き取ったりして大変な思いをした。
塩を焼いて押しつけると早く固まるので、そのことを藤波選手にもアドバイスした。
すぐに彼は袋の中に塩を詰め込んで、フライパンで熱したものを耳に当てていた(後略)」


カリフラワーを早く作るには塩加減が大事なようだが、ここでも耳の硬化に塩が使われている。
果たして塩が肉体の硬化に本当に有効なのだろうか。
生理学的な根拠はあるのだろうか。
そして血圧は大丈夫なのだろうか。
疑問は尽きない。

(2006.1021)

参考:「凄くて愉快な拳豪たち」梶間正夫 1986年ベースボールマガジン社
「プロレス、至近距離の真実」ミスター高橋 1998年講談社


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