No.130
『地獄プロレス』
新日本プロレス1984(昭和59)年2月7日 東京・蔵前国技館「新春黄金シリーズ第31戦」

新日本プロレス1984(昭和59)年2月7日 東京・蔵前国技館


↑別冊ゴング昭和59年3月号より

1984年2月8日の東スポを見て自分は言いようのない思いに駆られた。
一面は前日の新日本プロレス蔵前大会の結果の報道だが、見出しのコピーが

「惨!地獄プロレス」

―地獄プロレス。これ以前にもこの後にも聞かれたことのないネーミング。
衝撃、流血、波乱、破壊、裏切り
そして謎!
様々な要素が混濁したカオスのごときパワー!
発表ではジュニアヘビー級王座決定戦以外はこれといったカードが見当たらないこの大会の新聞報道がどのぐらい自分に衝撃を与えたか。
自分でもそのときの心境をうまく説明できない。
しかし多くの思いの中で「もうプロレスを見るのはやめよう、これで終わり」
という気持ちが生じたのは確かだ。
おそらくはこれほどの内容の大会を見逃した、という気持ちが大きかったのだと思う(註1)、それほどの衝撃だった。
以下テレビ観戦した感想がノートに書き留めてあったのでそれを元に進めてゆく。

●藤原喜明対アニマル浜口
「問答無用!仕事師」のスーパーとともに入場してきた藤原喜明。
札幌での長州襲撃事件を引きずっての登場だ。
アニマル浜口とのカードは当日急遽決まったらしい。
全身から異様な迫力がみなぎっている。
藤原がこのアニマル浜口戦で出した技はパイルドライバー、ブレンバスター、そして頭突きである。頭突きは名手大木金太郎ばりの一本足頭突き、木戸修も多用するボディへのカウンター頭突き。自らの額を割られ流血しながらの一本足は迫力。
この試合の藤原は自分が晴れ舞台(テレビマッチ)での主役であること(フジワラ・コールも出た)に対する喜びと、セコンドの長州ら維新軍5人から狙われているという緊張感が漂っていてなかなかいい雰囲気を醸し出していた。この日の後の大阪での正規軍対維新軍6人タッグでも維新軍の総攻撃でレフェリーストップ負けを喫したそうだが、藤原はやられっぷりも見事なのでこちらの放送も楽しみ。

●WWFジュニアヘビー級王座決定三ツ巴戦 スミス対キッド対コブラ
対戦順は1.スミス対コブラ、2.スミス対キッド、3.キッド対コブラ
という順番だった。スミスは第1試合のコブラ戦でスタミナをロスしたようでキッドと戦った頃は相当苦しそうだった。
相手を目よりも高く差し上げる人間起重機は確かにド迫力の技ではあるがそれ以上に疲労が大きい技だろう。
場外へのプランチャーもいまひとつな感じ。
しかしスミス、素質は抜群であり好きな選手。
ザ・バンピードとしての初来日時はキッドに似ているということもありイメージの重なりを払拭できないかもしれないなどと危惧していたが、どうやら余計なお世話だったようである。
コブラは積極的に勝ちに行こうとする気持ちが感じられず、大技のスペースフライングタイガードロップを失敗して最後はキッドの雪崩式サイドスープレックス、バックドロップの連発の前に屈した。
キッドに関しては試合内容、気迫と文句のつけようがない。
ただ体が大きくなった分スタミナ切れが激しいようである、また来日してほしい。

●猪木対バッドニュース・アレン
このカードが蔵前メインだったというのが観戦を躊躇した一因ではある。
前週のテレビ放送までアレンと結託していた木村が乱入して、なぜかアレンにラリアートを見舞って猪木が勝ってしまうという不可解な試合。

放送2週目
●長州、谷津対H.ホーガン、T.M.シャープ
ホーガン、長州という日米の人気上昇中のレスラー同士の注目の激突のあるタッグマッチ。
超新人だったホーガンに苦渋をなめさせられた過去のある長州が維新軍結成後どのように戦うのかというテーマがあり、加えて谷津とシャープという脇役の動向も気になる部分があった。
ちなみにT.M.シャープは日本におけるプロレス創成期の蔵前国技館において力道山と死闘を展開した「シャープ兄弟」マイク・シャープのジュニアである。
当時WWF、IWGPの二冠を保持していたホーガンを向こうにまわし流血しながらもリキラリアートとアックスボンバーの相打ちという名場面(註2)を見せてくれた長州が一番光ったようだ。
テレビで見た限り「ホーガンコール」と「長州コール」はほぼ互角。
なぜか逆上して長州の額のばんそうこうを引き剥がし、負傷箇所へのパンチの連打で流血させたホーガンがヒールの立場に回ってしまった印象。
しかしホーガンの余裕のある試合運びに比較すると、試合後のにらみ合いから乱闘に移行する部分でいまいち足が前に出ない長州の内面には外国人選手に対するコンプレックスがいまだに存在しているのではないか。
それにこのところ試合毎に良く見えていく印象がする長州だが、外国人選手との試合は対戦の意義が希薄な感じがする。
昨年の暮れのMSGタッグリーグ戦のエキシビジョンマッチにおいて長州はマードック・アドニスのマンハッタンコンビと対戦した。
いつも日本人選手と対戦する時とは違って気迫を全面に出すこともない、地味な試合だった。
そればかりか長州はマードック・アドニスに対してドロップキック、回転エビ固めといった新しいファンの目には新鮮にうつる技を披露した(註3)。
それはやはりいつも正規軍の日本人選手(もっと突っ込んで言うなら、藤波)に仕掛けている自分のブルファイトが体格の大きい外国人レスラーに通用するか否かという葛藤の末での選択だと思える。
長州とホーガンの絡みは迫力があり面白かったが、対外国人選手ということだと長州はまだまだ課題があると思った次第。

藤波がラッシャー木村に反則負けを喫した試合も放送されたが省略。

(2004.0410)

(註1)ちなみに千里眼は見に行っていたそうである。
(註2)何かこのビジュアルが同年のIWGP優勝戦の乱入でも見られたことを考えると複雑な気分だ。
(註3)「噛ませ犬発言」以前の長州は時々使っていたと思う。

2004.0413
この大会を実際に生観戦した千里眼より感想のメールが来たので紹介する。

人それぞれの見方があると思うんですが、千里眼としましては、藤原対浜口で藤原がフォール負けしなかったことは驚きでありました。
所詮前座レスラーにすぎなかった当時の藤原が反則勝ちとはいえ、次に繋げる展開に持っていったわけですから。
思えばあの日から藤原は「スター選手」になれたわけですね。
で、あの日、割を食ったのは前田と木村健吾だね。
カードが外人相手でも維新軍相手でもなかったわけだから。
ジュニア巴戦はなかなかのものでしたが、今にして思えば切り札カードのキッド対スミスをもうやっちゃったわけだから、それ以上は展開できないわな。
巴戦といえば千里眼は三沢・川田・小橋の巴戦を観戦したことがあります。
すでに新鮮味がなくなってきた”四天王対決”も味付け次第ではまだまだって感じだったかな。
(以下略)

新日本プロレス「新春黄金シリーズ第31戦」
1984(昭和59)年2月7日 東京・蔵前国技館
観客=1万2千人(超満員)

1.15分1本勝負
○栗栖(首固め、9:56)力抜山●

2.20分1本勝負
○B.フェース、星野(体固め、12:46)高田、山崎●

3. 20分1本勝負
○小林邦、寺西(脳天砕き固め、12:15)B.タイガー、B.ハート●

4. 20分1本勝負
▲木村健(両者フェンスアウト、10:25)前田▲

5.30分1本勝負
○藤原(反則、4:44)A.浜口●
*維新軍乱入。

6. WWFジュニアヘビー級王座決定三ツ巴リーグ戦(各60分1本勝負)
▲D.スミス(両者リングアウト、9:55)ザ・コブラ▲

7.同
○D.キッド(リングアウト、14:03)D.スミス●

8.同
○D.キッド(エビ固め、6:17)ザ・コブラ●
*キッドが第10代王者となる。

9.45分1本勝負
○H.ホーガン、T.M.シャープ(片エビ固め、9:20)長州、谷津●

10. 45分1本勝負
○R.木村(反則、9:24)藤波●
*藤波がコーナーポストの金具で凶器攻撃。

11.60分1本勝負
○A.猪木(卍固め、9:20)B.アレン●

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