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<あらすじ> 雨の夜、警視庁の警部補が刺殺され、彼の拳銃が奪われた。
数時間後、その拳銃を持った者が暴力団が経営する秘密賭博場を襲撃し、
暴力団員三人が射殺され、テラ銭三千万円が奪われた。
その事件の実行者・伊達邦彦は通信社のカメラマンとして各国の戦場を渡り歩き、
帰国して退社したのち翻訳の仕事をしていた。
彼は銀行強盗を計画し、東洋銀行日本橋店の防犯体制を綿密に調査する。
計画を実行するにはもう一人必要と感じた伊達は、大学の同窓会の席で凶暴性を見せ付けたボーイの真田を洗脳し、仲間にする。
一方、刑事の柏木は街で偶然伊達を見つけ、警部補が殺された夜目撃された容疑者の特徴にそっくりだと直感する。
柏木は伊達を尾行するようになる。
伊達は真田とその女を連れて伊豆の別荘に行き、真田に銃の訓練を施す。
そして真田に、女を殺せと強要する。
銀行強盗計画決行の日、伊達と真田が現場に到着すると、偶然伊達に懇意を見せるOL・華田令子が銀行に姿を見せる。
伊達は一瞬動揺するが、計画は決行される。
鉄道で逃走する伊達の前に、偶然柏木が現れる。
途中で銀行強盗発生の報を聞いた柏木は伊達をマークし、東北方面へ進む夜行列車に乗り込む。
08年12月6日、北千住東京芸術センターシネマブルースタジオで見る。
もっとも以前テレビですでに見ているが。
初見当初不明な部分があり、それが自分の記憶の欠落なのか、テレビでのカットなのか、
そういった部分を確かめるために見に行く。
シネマブルースタジオは巨大なオフシアターだが、土曜の1回目の上映では自分を含めて観客が9人。
もっと入ってもいいかと思うが。
学生の時、友人とこの映画で話題になった。
その箇所は『列車の中で伊達と柏木が「リップ・ヴァン・ウィンクル」についてやりとりする場面』と
伊達が死ぬ?ラストシーンの2箇所。
「リップ・ヴァン・ウィンクル」はアメリカの浦島太郎みたいな話の主人公。
彼が森の奥に迷い込むと不思議な人たちに出会い、お酒をご馳走になる。
彼が寝込んでしまい起きてみると不思議な人たちはもういなくなっていて、
村に戻ると雰囲気が違う。
彼が寝込んでいる間に数十年の月日が経っていて、妻も他界していた。そういう話。
伊達をマークして東北行きの夜行列車に乗り込んだ柏木は、ラジオで華田令子が殺害されていたニュースを聞いて拳銃を伊達に突きつける。
しかしすぐに真田に後ろから銃を突きつけられ、柏木は拳銃を伊達に奪われてしまう。
伊達はリボルバーに1発だけ弾丸を残し、ロシアンルーレットの要領で柏木に銃を突きつける。
そして・・・「寝る前にお話しましょう。リップ・ヴァン・ウィンクルの話、知ってます?」と語り始める。
友人との話題は「なぜここでリップ・ヴァン・ウィンクルの話が出てくるの?」。
じっと耳を凝らして映画の中の伊達の話を聞いていると、リップ・ヴァン・ウィンクルはお酒を飲んで寝ている間に、夢を見た。
それはどんな狩りでも許されるという夢だった。
しかし狩りがクライマックスに達しようとした時、夢は醒めてしまった。
村に帰ると何十年の月日が経過していた。
ツボはここではないか。戦場カメラマンとして各地で写真を撮り続けた伊達は、ラスト近くで兵士を殺したことを独白する。
そしてそれからは殺人の快楽にはまりこんでしまう。
彼の所属する通信社は過激すぎる伊達の戦場の写真を使用することが出来ず、おそらく伊達は帰国を勧告されたのではないだろうか。
つまりそれまでは戦場カメラマンという仕事の合間に、殺人(ヴァン・ウィンクルの狩りの夢)をすることが出来た。
しかし帰国した日本はまるで別世界のように平和で、ヴァン・ウィンクルのように自分の存在が浮き上がってしまった。
ヴァン・ウィンクルの語りは、伊達の自己投影だったのではないか。
このシーン、引き金を引くたびに柏木がビクッとして緊張感は相当なもの。
動揺する柏木は伊達に「あんたには最初から妻なんていないじゃないか」と見当違いの話をする。
その後の柏木の「リップ・ヴァン・ウィンクル」の発音がリアルなイングリッシュっぽくって、
拳銃突きつけられている柏木にそんな余裕あるのかよ、と可笑しくなる。
伊達は自分が寝たふりをした時逃亡を図ろうとした柏木を撃ち、倒れたところに蹴りを何発もブチ込む。
真田にも蹴らせる。その後車掌が通った時に、手が血だらけの柏木を席に座らせて偽装を図る。
この時点での柏木の命は?
その後戦場での記憶が甦ったか、伊達はカーキ色の服を着て銃を構え戦争ごっこをおっぱじめる。
「一時撤退」伊達は真田と列車から飛び降りる。
伊達と真田はさまよううちに廃墟みたいなトンネルでセクースしている暴走族風のカップルを見つけ、男の方を射殺する。
真田は女を犯し始める。伊達はカメラで真田の行為を撮影し、戦場での経験を独白しまくる。
そのうちに戦場でレイプシーンを目撃した独白が始まり、その記憶が目の前で女を犯す真田と重なった伊達は真田を射殺する。
場面は変わって、前半でも見られたクラシックコンサートのライブのシーンになる。
前半では隣の席に華田令子が座っていたが、もう彼女はいない。
前半のライブシーンでは天を仰ぎ涙していた伊達だが、後半では眠ってしまったよう。
眠り→夢、これもヴァン・ウィンクルにつながるのか。
起きると会場は無人で、伊達は2回奇声を発したあと会場を出る。
石の階段で伊達は狙撃される。
当たりを見渡すと、陽炎の中に白い服を着た男が立っていた。
倒れた伊達が手すりを掴んで起き上がろうとするシーンでストップモーションになり、映画は終わる。
友人との話題は「最後に出てきたあの男、誰?」
かつて見たとき、テレビの小さい画面では判別できなかった。
「あれが『リップ・ヴァン・ウィンクル』だったんじゃないの?」という説も出た。
しかし・・・大画面で見直すと、あれは柏木だった。白いシャツにノーネクタイ、右胸に血糊。
銃は持っていない。柏木は生きていたのか?でもわざわざ血染めのシャツ着て現場に来るはずもなかろう。
ラストは伊達の白昼夢だったのか?それとも死ぬ間際に伊達が柏木の幻影を見たということか。謎だらけ。
現代の若者が内包する得体の知れない狂気、主人公の病的な殺人嗜好を
松田優作が死んだ魚のような眼で表現して演じている。もっとももう25年以上前の映画である。
「雨音はショパンの調べ」も懐かしい小林麻美は普通のOLを演じきっている。
伊達の銀行襲撃では銀行関係者以外で唯一殺される役だが、
華田令子は黙っていれば殺されなかったのに、マスクで顔を隠した伊達の背後に寄り
あろうことか「伊達さん・・・」と呼んでしまう。
そこでマスクを外して顔を見せた伊達に射殺されてしまう。
華田令子は「何で銀行強盗?」「何で私を殺すの?」頭の上にクエッションマークが浮かびながら息絶える。
どうしてあそこで名前呼ぶかなー、いくら懇意にしていたとはいえ。
(08.1221)
1980年東映・角川春樹事務所提携作品
原作:大藪春彦
製作:角川春樹
監督:村川透
音楽:たかしまあきひこ
出演・配役
松田優作:伊達邦彦
小林麻美:華田令子
室田日出男:柏木秀行
鹿賀丈史:真田徹夫
根岸季衣:原雪絵
その他、風間杜夫、岩城滉一、泉谷しげる、 佐藤慶、安岡力也、トビー門口、 阿藤海
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