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監督:黒澤明
音楽:早坂文雄
出演:三船敏郎、志村喬、木村功、井田綾子(=淡路恵子)
1949年、新東宝・映画芸術協会提携作品
<あらすじ>猛暑の夏、若い刑事・村上(三船)は満員電車の中で拳銃を盗まれる。
刑事はスリの女から拳銃ブローカーの存在を突き止めるが
刑事の拳銃を使った強盗殺人事件が発生し
事態は緊迫を強める。
08年5月、NHK衛星「黒澤明没後10年」の企画で見る。
前振りの解説によると黒澤監督が脚本家とネタを求めて警察署詣でをしている時に
ある刑事から拳銃紛失の話を聞いたという。
そこから話を膨らませていったよう。
・・・だけど三船の刑事、ポケットにそのままコルトを入れて満員電車(路面電車)に乗ったようで
それじゃスッて下さい、と言わんばかりだろうに。
普通は拳銃用のケースに入れるもんだろ、と思う。無用心の極み。
でも物語の動機としては、それがなきゃ始まらないんだよなあ。
映画は終戦直後数年の東京の風景がそのまま残されているといった感じで記録と考えても面白い。
しかし白いスーツで髪をキメた三船はなにか似合わない。
と思っていると、拳銃のブローカーを探すため復員兵姿(の変装)で再登場、無精ヒゲ、ボロ、いやよく似合う(笑)、これこそ。
この映画でも黒澤映画の一つのテーマである二面性あるいは合わせ鏡となる存在が登場。
すなわち三船の刑事と犯人・遊佐(木村)がともに復員の時金の入ったリュックを盗まれた経験があるということ。
世の中が悪い、悪いと思わせながらそこから立ち直ってゆくのは自分しかないという訓示が秘められている。
オープニングで犬がハアハアしてるのは「暑い夏」のイメージだったのでしょうか。
でもよく考えると「野良犬」ってタイトル、しっくりしない。
劇中のセリフで「(犯人は)野良犬から狂犬になる」みたいな言い方はあったけど。
野球場で張り込んでるシーン、試合はジャイアンツ対ホークス。
この時代(1949年)はプロ野球がまだ1リーグ制。
なのでこの日本シリーズみたいなカードが実現している。
「バッター川上、背番号16」というアナウンスが聞こえる。
これも時代を感じさせる。
クライマックス直前で三船が、負傷した佐藤刑事(志村)から盗んだような推理力と観察眼で
電車の待合室にいる遊佐を特定するシーンはなかなか。
犯人との対決シーンでは
朝からピアノ弾いてるブルジョアの女性が何気なく窓の外を見るシーンがあって
窓を隔てて平和な家庭の朝の一室と
安月給の刑事と犯人が格闘している外界とが対比する異世界を形成していて、
それがまた貧富の格差を強調している。
ラスト、村上刑事が佐藤刑事を見舞う病室、
「いちいち犯人に同情してたらこの仕事やっていけない(大意)」
というやり取りが、人間が生きている限り犯罪というものはなくならない、
だから我々は飯が食えるんだ、という社会構造の悲しさというか
因果な職業を選んだ悲哀、といった感じが出ててちょっと考えさせられた。
(08.0529)
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