ブルース・リー「死亡遊戯」と「G.O.D 死亡的遊戯」
そしてケイブンシャ発行の「死亡遊戯」ノベライズ

ブルース・リー 死亡遊戯(1978年アメリカ、香港)
原題:Game of Death
監督:ロバート・クローズ
音楽:ジョン・バリー
出演:C.キャンプ、G.ヤング、D.ジャガー、H.オブライエン

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Bruce Lee in G.O.D 死亡的遊戯(2000年日本、アメリカ、香港)
監督:Toshikazu Okushi
音楽:Tomohiro Endo
出演:ディヴィッド・リー、レオン・チュン・キット

ブルース・リー・イン G.O.D 死亡的遊戯 [DVD]

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ブルース・リー 死亡遊戯(R.クローズ版)

カンフー映画のスーパースター、ブルース・リーがハリウッド作品「燃えよドラゴン」への参加で中断していた
「死亡的遊戯」の撮影再開の矢先に急逝したのが1973年。
それから5年の歳月を経て、残されたリー出演部分に新たに別の出演作品からの流用や
代役のシーン等を加えて完成したのが78年の「ブルース・リー 死亡遊戯」(以下、R.クローズ版と呼称)。
監督は「燃えよドラゴン」と同じR.クローズ。
音楽は「007シリーズ」で印象的なフレーズを聴かせるジョン・バリー。
オープニングのチェス、スロットマシーン、バックギャモンなどの種々の「ゲーム」と
「ドラゴンへの道」のリー対チャック・ノリス戦のフィルムを織り交ぜた映像がメインテーマと融合して美しい。
香港の人気アクションスターのビリー・ロー(B.リー)が興行を牛耳る裏組織に、傘下に入らないかと脅迫される。
しかしそれを拒否したビリーに対して組織は暴力的な嫌がらせを続け、
遂に映画の撮影シーンで空砲にまぎれて実弾を発射してビリーを殺害しようとする。
(このシーン、「ドラゴン怒りの鉄拳」のラストシーンを流用)
ビリーは顔面に傷を負うが奇跡的に一命はとりとめる。
そしてビリーは組織と戦うために、自分を一度死んだことにして敵を欺く。
葬式のシーンがあるが、これが一部実際のB.リーの葬儀の実写フィルム。
整形手術を経て回復したビリーは変装等を駆使して反撃を開始する。
そして敵の本拠地、レッド・ペッパー・タワーに乗り込む。
しかしその建物には各階で武芸者や謎の敵が待ち受けていた・・・。
リアルタイムで銀座の映画館で見たとき、階段を登ってくる黄色いつなぎを着たB.リーが動いているのを見て興奮・・・。
劇場内ではそのシーンで拍手も起こったものだった。
写真でしか見たことのなかったD.イノサント戦、池漢載<チ・ハンサイ>戦、
そしてカリーム・アブドゥール・ジャバール戦を動く映像で見てしかし
「これでブルース・リーも殆ど見たなあ・・・」という気持ちになったのは間違いない。


Bruce Lee in G.O.D 死亡的遊戯

2001年、渋谷の映画館で「G.O.D 死亡的遊戯」を見る。
R.クローズ版から実に23年を経て、未公開の映像を使って新しい映画になっているというので期待。
内容は前半が代役を使って映画の構成などが作られていく過程、当時の関係者やD.イノサントのインタビュー映像も。
イノサントがリーと共同でカンフーのジムを経営していた時の話。まだ当時はカンフーは秘密主義だったので教室も秘密。
生徒だと伝える秘密の符牒でドアを叩く「タッタカタッタ、タッタ」。
劇中ブルースは新作映画のタイトルを「死亡的遊戯」としたが、プロデューサーは「死」がつくタイトルは縁起が悪い、と改題を提案。
しかし生き急いでいるようなブルースはそれを拒否、「最高のマーシャルアーツ映画」完成のためさまざまなプランを考えてゆく。
クライマックスの舞台となる五重塔のイメージ・イラストもアニメーションで再現。
オープニングシーンの映像化はならなかったが、
「雪が積もって折れる堅い木の枝、積もった雪をはじき返して元に戻るしなやかな枝」
という「柔よく剛を制す」的エッセンスがあって、これは後のD.イノサント戦での舌戦のセリフの中でも生かされている。

「死亡的遊戯」はクライマックスから撮影されているが、先に重要なシーンを撮っておいて
後からストーリーを仕立ててつなげるという手法は香港では割とあるらしい。
残されたクライマックスの映像から推測するに、
1.五重塔の最上階に宝か宝の隠し場所の地図かそういった「ブツ」があってリーら3人はそれを取りに行く。
2.3人、少なくてもリーと2人(田俊<ジェームズ・ティェン>、陳元<チェン・ユアン>)にそれほど仲間意識は感じられない。
3.最上階の「ブツ」は先に取ったものが勝ち、みたいなルールがあるようで、
池漢載と闘っているリーを出し抜いて上階に上がろうとする2人を、リーが阻止しようと手を動かすシーンがある。
以上の大まかな設定があることが伺われる。

後で買ったDVDの解説によると、D.イノサントの「虎殿」は五重塔の三階に位置していて、
未撮影に終わったが一階は金光植(<ウォン・インシック>「ドラゴンへの道」に出演、日本人武道家に扮し「あー、痛・・・」を連発)、
二階「豹殿」はターキー木村が守っているという設定だったそう。
しかしそうなると、五階であるジャバールの階ではさらに上の階を目指そうとして階段を駆け上がるところを
ジャバールにバスケットボールのシュート宜しく叩き落される田俊のシーンがあり、
なら六階があったのか?と考えてしまう(五重塔のアニメーションも五階)。
まあそれはともかく後半のファイティング・シーンはD.イノサントの守る階「虎殿」から始まる。
R.クローズ版と「G.O.D」のファイティング・シーンの最大の差異は、リー側の2人の味方?の存在と、リーのセリフの取捨である。

「虎殿」のオープニングは別テイクの存在が確認できる。
R.クローズ版ではリーが小走りに一人で階段を駆け上がってゆくと、部屋にはイノサント(R.クローズ版での役名は「パスカル」)が座っている。
「G.O.D」では陳元と田俊を素手と2本のカリ・スティックで痛めつけたイノサントの前に、階段から上がってきたリーが登場し、
さっそく手にした竹のステッキで威嚇する。
そしてリーはイノサントに「オマエ英語話せるか」と問いかける。
R.クローズ版の戦闘シーンでは殆どリーは喋らなかったが、「G.O.D」ではセリフが多い!
「この竹は君の棒より長くてしなやか、君の動きではこのスピードと変化についていけない」
と理論的に挑発するリー。
イノサントはカリ・スティックを叩いて威嚇。その時のリズムがあの「タッタカタッタ、タッタ」。
リーも竹の先端を床につけて「タッタカタッタ、タッタ」。
リーとイノサントが実世界では同門、ということを意味しているのか当時の生徒さんが見ればニヤリとする内輪ネタか(笑)。
対戦は竹棒対カリ・スティックの攻防を経て中盤ヌンチャク対ヌンチャクの戦いとなり
イノサントの一発がリーの頬にヒット。
イノサント「口ほどにもない!」
そこへリーのお返しの1発がヒット、今度はリーが「口ほどにもない!」
そしてイノサントの反撃をかわして人差し指を立てて(通じないよ)のゼスチャー。ここはよく出来ている。
R.クローズ版ではイノサントのセリフが「まだやるか」で、リーのお返しのヒットはあるもセリフなし。
この後はイノサントのグランドでのヌンチャク攻撃などが「G.O.D」で初めて見られたシーン。

次の階の「龍殿」にリーら3人が上がると、ベットに横たわって腕マクラでくつろぐ財津一郎似の池漢載。
白いスケスケのカーテンを抜けて出てきた池漢載がスイッチを押すと赤い照明がついて、
ベッドだけ見るとそういうお店みたいな耽美的な雰囲気(笑)。
「武器を使っているようじゃまだまだだな、ここではそんなもの役に立たない」と、ヌンチャクを持ったリーを挑発する池漢載。
DVDの解説によると、池漢載は韓国合気道最高の段位「金段」の取得者で(映像の中でも襟と帯に金色をあしらった道着を着用している)
韓国の大統領の警備隊員を務めていたという経歴の持ち主だそう。
確かに見た感じ合気道の手首決めての投げは見事(でも右手を頭の後ろにかざす構えは何だかヘン)。
陳元と田俊2人同時でも何なく投げてしまう。
韓国の合気道は蹴りがあるせいかやや日本の合気道と比較すると体重が前にかかっているような構えではある。
リー対池漢載、ファーストコンタクトはリーが右手をかざす。
池漢載がその手を取ろうとしたところでリーが手を引っ込めての右回し蹴り、この攻防早すぎて一回じゃ判らない。
この隙に田俊が陳元をそそのかして上階に偵察に向かわせる。リーは陳元を阻止しようとするが陳元は階段を駆け上る、
しかしすぐさま陳元は悲鳴と共に階段から転げ落ちる(DVD解説によると「絶命」)。
次いで田俊が単独で階段に上がろうとするがこれは池漢載に阻止され、投げ飛ばされる。
田俊、再度上階に上がろうとするがこれが成功、しかし待ち構えていたのは2メートルを超える謎の黒人だった。
リー対池漢載はリーのシュミット式バックブリーカーで決着。

リー対池漢載と同時進行になった上階の田俊対ジャバール(R.クローズ版の役名は「ハキム」)は
ジャバールが高角度からの蹴り、ネックハンギングツリー(手が伸びすぎ)で圧倒。
田俊最後は命乞い。
上がってきたリーの前に、吹っ飛ばされた田俊が落ちてくる(DVD解説によると「息絶える」)。
リー対ジャバールの死闘が始まる。
ここではジャバールのセリフがある。リーに「おいチビ、勝てると思っているのか?」
リーは「よく聞け、オマエより優れているのがこの俺さ」と返す。
攻防は一進一退となったが、ジャバールのパンチでふらついたリーが障子紙を破ってしまい外界の光が部屋に入る。
するとその光をよけるような素振りをするジャバール。
光が弱点と気づいたリーは障子紙を破りさらに外の光を入れる。
さらに弱りだすジャバール。
ここでリーはジャバールに「まだやるか」と問う。これは「ドラゴンへの道」で足を痛めたC.ノリスに指でする合図と同じ。
ジャバールは「死ぬまで闘う」と言い、リーはヘッドロック気味のネックロックでジャバールの首をへし折る。
「ドラゴンへの道」のC.ノリス戦も最後はフロント式のネックロックでの首折り。
共にグラップリング的なフィニッシュが、カンフーを超越した総合格闘技的なイメージを想起させる(しかし共に’70年代に撮影されたフィルムだ)。
でも・・・ジャバール何で光に弱いのなら、障子紙なんかじゃなくってもっと強固なもので遮光しなかったんだろうか(笑)。
障子紙なんてケチらずに鉄板でもつけておけば、闇の中の戦いならジャバールが勝っていたかも?
それはともかく、最強の敵に勝利したリーは上階へ・・・?
ラストシーン、リーは外に向かって叫ぶ「Game is over!」・・・。


ケイブンシャ発行の「死亡遊戯」ノベライズ

昭和49年10月1日ケイブンシャ発行の「死亡遊戯」に関する本を所蔵している。
「新着スチール写真日本初公開」とあるが月日がたった現在、一番興味があるのは巻末のノベライズ。
脚本:李小龍、構成・脚色:宇田川幸洋とある。おそらく原案から膨らませたストーリーであろう。
主人公の武術家の名前は李振華。リーの本名が李振藩であるからそこからとったものだろう。

新拳法「截拳道」の若き創始者李振華は
1967年香港で開催された第5回アジア武術大会で彗星のようにデビューし、
決勝でモンゴルの巨漢ラケア・カンを必殺の「連環三脚」で倒し弱冠二十歳でチャンピオンとなる。
「連環三脚」とはその名のとおり三回転での回し蹴りのことである。
李振華は翌年の第6回東京大会で日本の空手家加藤(註1)を破り初の2連覇を達成、
続く第7回バンコク大会ではインドの秘境に伝わる武術の唯一の継承者であるジギダッド・シンを破り3連覇達成。
そして舞台を、アジア大会から3年遅れて始められた「世界武術大会」に移す、ここでも李振華は3連覇を達成。

73年の世界武術大会はニューヨークのMSGで行なわれることになり、
李振華は今回は参加せず観戦のみの会場入りということで妻子と共に移動中だった。
しかしソウルで何者かにより妻子を誘拐される。
誘拐した張本人は金と名乗り、妻子を返してほしければ韓国の郊外にある五重塔の最上階にある財宝の地図を取って来い、と要求した。
五重塔の各階には武芸者がいて、彼らを倒して上に上がらなければ地図は手に入れることが出来ない。
そしてこの塔は高圧電流を使って磁力を発生させているため、金属の武器は使用できないという設定。
だから銃火器や刃物を使えないので、徒手空拳での最強者を選んだということ。
この設定が構想の時点から生きていると思わせるのが、リーとイノサントが使用するヌンチャクである。
B.リー主演作品でヌンチャクが登場するのは「ドラゴン怒りの鉄拳」「ドラゴンへの道」「燃えよドラゴン」そしてこの「死亡的遊戯」だが、
「〜怒りの鉄拳」「〜への道」「燃えよ〜」に登場するヌンチャクはいずれも棒部分の接合が鎖によって造られているヌンチャクであるが、
「死亡的遊戯」のヌンチャクは接合部分が紐である。だから振り回すときの音が他の作品と比較すると軽い。
これが「金属持ち込み不可」の舞台設定の名残りとは言えまいか。

さて五重塔に殴りこむのは李振華だけではなかった。
タイ武術の蘇閣、韓国合気道の朴正和、日本空手道の井上の4人がチームを組んだ。
金の側近の男の撮影したフィルムにより、一〜三階の武芸者の流派・力量はそれとなくわかったが
四階の窓は閉じられ、その階を守る者が何者なのかは知ることが出来なかった。
ただ羊や子豚の丸焼きが食事として運ばれる映像を見ると四階には肉食獣が飼われているのでは、とも推測された。

塔の前の吊り橋を守る少林寺の流れを汲む複数の僧を倒して、一行は一階に。
一階は蟷螂拳の名手とフィリピンの「魔杖」と呼ばれる棒術の使い手が守る。
「魔杖」の使い手は井上が倒したが、蟷螂拳は2対1の状況から蘇閣を倒す。朴が蘇閣の仇を討って二階へ。

二階を守るのは韓国合気道金段の強豪。しかも朴正和とは同門だという。
金段と朴の因縁の対戦は金段の指を立てての突きが朴の腹部に決まる。助太刀に出た井上も投げで飛ばされる。
ここで李振華登場。「大陰指」という太陽神経叢への突きが炸裂。しかし朴は絶命、井上も肩の骨を痛める。

三階の守護神は、アメリカ人のヌンチャクの達人。
アメリカ人は八角棒で手負いの井上を蹴散らした後、李振華とヌンチャク勝負。
ここで李振華の「連環三脚」が炸裂、アメリカ人を倒す。
しかし手負いの井上が上階を目指す、が叫び声とともに落ちてきたのは粉砕された井上の亡骸だった。
驚愕する李振華、しかし勇気を振り絞って上階に上がる。

四階にいたのは黒い巨人だった。
李振華は黒い巨人の強烈な攻撃に手を焼くがほんのはずみで巨人が外界の太陽光に弱いことに気づき、
部屋に光を入れて巨人を戦闘不能にする。
かくして李振華は最上階の秘宝の地図を手に入れ金の元へ戻り地図を渡そうとするが、
金は更なる取引を提案、怒った李振華は金に実力行使、妻子を奪還する。

ノベライズはけっこう面白い。リーが生きていれば「武術大会」のロケも構想されていたらしい(註2)。
それはさておいても「G.O.D」で公開された40分以上の五重塔でのファイティングシーンは圧巻。
「死亡遊戯」が完成されていれば確かに「最高のマーシャルアーツ映画」になっていたことは間違いないのでは。

(2006.0506)
註1:ご存知かと思うが、リー出演のアメリカTV番組「グリーン・ホーネット」でのリーの役名が「カトー(ケイトー)」。
註2:R.クローズ版のB.ウォール(「燃えよドラゴン」のオハラ役)対
サモハン・キンポー(「燃えよドラゴン」のオープニングの模範試合でリーと対戦)のプロ空手マッチが
武術大会の会場イメージをほうふつとさせる。ちょっとリングが、狭くてロープ低いというチープな出来だが。

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