「天使のはらわた 赤い教室」 文学の香りとロマンポルノの可能性を感じさせる佳作。

天使のはらわた 赤い教室 [DVD]

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<あらすじ>ポルノグラビア編集長の村木(蟹江)は
秘密上映会で見たブルーフィルムの
教室で強姦される女に興味を持つ。
偶然その女・名美(水原)を発見した村木は改めて次の日に逢う約束をするが、
トラブルで誤認逮捕されてしまい約束の場所に行けなくなる。
雨の中待ち続けた名美は村木の名刺を破り捨て行きずりの男と床を共にし、
二人の運命の歯車は大きく外れていってしまう。

2010年1月16日、渋谷シネマヴェーラの特集「消えゆく曽根中生!?(註1)」で見る。
ちょっとしたトラブルで結びつきそうな男女の仲が割かれ、
三年後に再会した時には修復不能になっていたという話。

村木は時々撮影の舞台として使用するラブホテルに予約の電話を入れると、
電話の先の受け付けが変わっていたことに気づく。
そしてラブホテルに直行して確かめると、
受け付けにはあのブルーフィルムの女が座っていた。

「受け付けが変わっていた」という記述はおいらの勝手な想像。
「変わっていなかった」のかも知れないし、
ラブホテルへの手配はいつもはパートナーやら助手みたいな人物がやっていたのかも知れない。
ブルーフィルムはサイレントらしい描写なので「電話の声で判断した」ってのもなさそう。

村木、すごい嗅覚。

公園で会話したのち連れ込み旅館みたいなところに入る村木と名美。
名美は自ら服を脱ぐ。村木は名美の手首に、自殺未遂の傷跡を見つける。
ブルーフィルムは演技ではなく、リアルな強姦だったらしい。
教員実習生だった名美はブルーフィルムの存在で職を転々としていたようだった。
が、村木は名美の体を求めていたのではなく
グラビア編集者として「お互いにいい仕事をやりたい」ために声をかけたと告げる。
だから名美の求めに応じず、明日もう一度きちんと逢おう、と告げる。

村木には名美に肉欲以上のものを感じたのだろう
(そうじゃなかったらその連れ込み旅館でヤってるでしょう)。
それはいいグラビアづくりの仕事―仕事だけ―だったのかも知れないし
プラトニックな愛、
「天使のはらわた」の天使たる部分だったのかも知れない。


ところが村木はかつてグラビアに使った娘が年齢詐称だったため児童福祉法違反容疑で留置され、
名美と約束したあの公園には行けなくなる。
…名美は待っていた。
土砂降りになっても傘もささずに待っていた。
ということは名美にも村木に対して何らかの期待があったのだろう。
職を転々とする生活から脱却できる夢が、一瞬でも彼女の脳裏をかすめたかもしれない。
しかし村木は現れず、前述の通り名美は行きずりの男とホテルに行く。

三年後、村木の会社は以前より大きくなり、当時不倫していた女との間に子供が出来ていた。
社の連中と飲めない酒を飲んだ後一人雨の中酒場が並ぶ路地裏をさまよう村木は
そこで客引きをしている名美と再会する。
名美は歌手を夢見ていた男と共に店を開いていた。
村木は名美に三年前約束の場所に行けなかったことを謝罪するが名美は無視。
名美の男が村木をぼこぼこにぶん殴って工事現場みたいなところに放置する。

村木は腫れた顔で前日の記憶を探り、再び名美の店に行くが
またしても男に殴られぼこぼこにされてしまう。

村木が気付くと、そこは押し入れのような暗い部屋だった。
そしてふすまの隙間から村木が覗くと、
そこでは畳の上で客たちの手が触れそうな位置で
男と名美が性交ショーを繰り広げていた。
男が果てると、客は我も我もと名美を買い快楽にふけり出した。
名美だけでは客の頭数と合わないと見ると
男は部屋の下に縛って監禁していたセーラー服の学生を引っ張り出し、客に提供する。
ふすまの隙間を通じて目が合う、村木と腰を動かし続ける名美。
虚無的な目を名美が村木に向ける。やるせない思いが募るシュツエーション


脚本はロマンポルノと言い切るには勿体ない文学的な匂いが漂い、
ラスト、村木の「一緒に行こう」という声にも振り向かず
印象的に水たまりを踏んづけて進み、現在の立ち位置で生きようとする名美。
この世の無常を訴えかけるような終わり方。
観客は名美の強い生き方に共感するか
はたまた「こんな世の中が悪い」と片付けるか
「自分にも同じような経験あるなあ…」と感じるか
人それぞれのいろいろな感想が出てきそうな出来。

【その他】

ホテルで行きずりの男とからむシーンで
照明の関係で水原のとんがった顎や頬の上の骨などが
陰影がつきすぎちゃって強調されちゃったシーンは
顔のデコボコが目立っちゃってせっかくの美女がだいなし。
もうちょっと工夫できなかったか、と思う。

劇場で復刻されたポスターが貼ってありましたが
水原が上半身裸で片膝をつき、肩に赤い上着をはおり
背景が真っ赤に塗りつぶされたインパクトある出来栄え。
エロのシーンがこのテンションで作られていたらもっと凄いことになっていたかも。

どういうわけかなあ…
渋谷シネマヴェーラの客席には一人で見に来てるような女性客の姿もちらほらと見受けられた。
先にも述べたように作品はポルノ映画と一言で片付けるのは勿体ない出来で、
そういう意味で内容と一部の客層にまだロマンポルノの可能性もあるのでは、と感じた次第。

1979年にっかつ
原作:石井隆
監督:曽根中生
脚本:石井隆、曽根中生
音楽:泉つとむ
出演:水原ゆう紀(名美)、蟹江敬三(村木)

註1:監督の曽根中生は現在消息不明だそう。

(2010.0202)

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