オペラ座の怪人

映画「2004年ジョエル・シュマッカー監督版」
ミュージカル「劇団四季版」
映画「1925年ルバート・ジュリアン監督版サイレント」

オペラ座の怪人 スペシャル・エディション(2枚組) [DVD]

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<あらすじ>オペラ座の新作の主役に代打抜擢されたクリスティーヌ、
彼女が上手に歌える秘密は夜な夜な聞こえる「音楽の天使」(実は怪人)の歌い声だった。
クリスティーヌはオペラ座の地下に一人住む怪人の秘密を知る。
怪人はクリスティーヌに惚れ込み芸術を極めるためにはもっともっと練習が必要だと諭すが、
クリスティーヌは幼馴染で再会したラウル子爵との恋に落ちてしまう。
怪人は劇場側にクリスティーヌを再び新作の主役に据えるように、と要求するが
劇場側がそれをを突っぱねたため怒った怪人により惨劇が繰り返される。


そもそもはガストン・ルルーの有名な古典スリラー小説であり、
アンドリュー・ロイド・ウェーバーが製作・作曲した舞台が世界中で20年近くもヒットを続けるミュージカルであるという知識はあった。

2005年春、映画「ジョエル・シュマッカー監督版」を観る。
オープニングは圧巻。1919年パリ、すでに廃墟となったオペラ座の劇場での、オークションのシーン。モノクロである。
オペラ座の舞台で使用された小道具などが次々とセリに掛けられている。
公演ポスター、髑髏の模型、猿のオルゴール・・・。
オークションには年老いたラウル子爵、そしてオペラ座のバレエ教師だったマダム・ジリーも参加していた。

そして・・・忌まわしい事件とかかわりがあった大シャンデリアが登場する。
フードが取られ電源が入れられると風が吹き埃を巻き上げる。
吊り上げられ明かりが灯されたシャンデリアに色がつき、
それが次第にモノクロだったオペラ座の場内に鮮やかな色彩を復活させる。
赤い絨毯敷きの座席、ギリシャ・ローマ神話の神々をかたどった鈍い金色の装飾などが次第に甦ってゆく。
同時にあの有名なテーマ曲、怪人のモチーフそのままの序曲「オーバーチュア」が観る側の心を捉える。
大シャンデリアが天井に据えられ、1870年代の全盛時に立ち返ったオペラ座を舞台に物語は始まる。

・・・完全にはまった・・・(笑)。

モノクロ映像から次第にカラーに変わってゆくドラマティックな特殊効果は映画ならでは、背中がぞくぞくした。
この後作品内の時間では現代であるはずの1919年(年老いたラウル子爵、マダム・ジリーが出るシーン)はモノクロで、
作品内時間で過去である1870年代のオペラ座を中心とした物語はカラー映像という、色彩が逆転した構成で物語は進んでゆく。


1925年のサイレント版をDVDで観る。
モノクロ・サイレント映画だから音はなく(オーケストラによるBGMが流れてるだけ)時々セリフが文章で画面に出る。
怪人役は怪奇派俳優のロン・チャニー。
顔を隠す仮面が何だか「博多にわか」の面みたいに見える。



怪人の素顔は特殊メイクで、目は落ち窪み鼻の穴と口は大きく、そして目立つ歯。
サイレント版でも怪人の顔の醜さに対する自身の苦悩は描かれている。
オペラ座の地下には湖のほかに多くの拷問部屋が存在するという設定。
怪人は日本の忍者のように息継ぎのための長い筒を咥えて服のまま水の中に入り、船で追ってくる追跡者を水中に引きずり込んで殺す。






2005年8月12日、電通四季劇場「海」にて「劇団四季版」を観る。
2階席だったが、生オーケストラでの演奏は充分。
オープニングのオークションのシーンでは巨大なシャンデリアが発光しながらワイヤーで徐々に天井に上がって行き、
そのバックにやはり「オーバーチュア」が演奏される。
そして幾重にも重ねられた弾幕が少しずつ開いてゆき、物語は始まる。
代役で「ハンニバル」公演初日を大成功させたクリスティーヌを鏡の中から誘う怪人。
父親が死んでからの寂しさを夜な夜な歌声で紛らわせてくれた「音楽の天使」に父の姿を投影するクリスティーヌは
導かれるままに闇の世界へ。
怪人がクリスティーヌを地下の棲家へ連れてゆくシーンは幻想的。
ワイヤーで吊られた階段のセットが右に上がったり左に上がったりして次第に暗い地下に降りていく状況をうまく表現。
地下の湖を船で渡るシーンはスモークがたかれ水をイメージさせる。
そして地下の湖を照らす明かりのための無数のロウソク、これが床から生えてくる、いやせり上がってくる。
そして棲家に着くとせり上がったロウソクがそのまま彫刻が施された蜀台へと変わってゆく。
素早く展開する場面の移り変わりは見る側の集中力を途切れさせず、飽きさせない。


シュマッカー版で松明の炎を頼りに地下の世界にクリスティーヌを導く怪人は、
時々クリスティーヌを気遣うように振り返りながらも「宝物を手に入れたような」少しうれしそうな表情で、
しかしそれは肉欲の介在する本能的なものとは別のやさしさを感じさせて、見る側の自分には共感が生まれた。

ここで歌われる「ファントム・オブ・ジ・オペラ」は「オーバーチュア」と同じメロディーで
クリスティーヌの闇(&怪人)に対する不安とそれに反する好奇心が複雑に入り混じった感情。
シュマッカー版の怪人役、ジェラルド・バトラーが歌う映画ヴァージョンがロックのボーカルみたいでエキサイティング。


大晦日の「マスカレード」仮面舞踏会のシーンはシューマッカー版、衣装、装飾などにそれほど原色を使用していないようであるが
(やはり鈍い金色が主体)大階段での紙吹雪が舞う中の多人数でのダンスシーンは豪華な山車(だし)がせり出してくるような華やかさ。
そこに「髑髏の仮面」に「赤い死」のコスチュームで登場する怪人、何とスタイリッシュなことか。

サイレント版もやはり髑髏の仮面で登場する怪人だが、その仮面は過剰にデフォルメされていて怪奇ムードと滑稽さが入り混じった印象。



シュマッカー版では怪人の過去が明らかにされる(劇団四季版でもセリフで説明される部分がある)
マダム・ジリーがまだ若くバレエを踊っていた娘時代のこと、街にサーカスなどの見世物の一団がやってきた。
その中に、檻に入れられ頭からフードを掛けられた半裸の少年がいた。

そう、あの象人間のように。
興行師が少年のフードを取ると、半分が醜く引きつった顔が。
しかし少年は観客が引いていくと、スキをみて興行師をロープで絞殺し、
檻から脱出した(この時から既にロープでの絞殺が得意技)。
それを見ていた若きマダム・ジリーは少年を連れてゆきオペラ座の地下にかくまう。
少年は外見とは裏腹に作曲、建築、発明などに素晴しい才能を見せ、オペラ座で上演されるオペラを書くにまで至る。
だから彼はオペラ座の支配人から給料を受け取り、5番のボックス席は常に彼のために空けてあるのである。

サイレント版でも怪人に給料は支払われ、5番ボックスも彼専用となっている。
サイレント版では彼にエリックという本名があることが明らかにされているが、怪人の過去の描写は異なる。


マダム・ジリーに、怪人に対する愛はなかったのか。
マダム・ジリーは怪人を「あの方」と呼び、
ラウル子爵に問われると怪人の過去を話す。
オペラ座における怪人の存在の当初からかかわり、怪人の行動を見て見ぬ振りをするマダム・ジリーは、怪人の理解者であり共犯者なのか。
さらに言えば「彼」をこの状況下に置いて「オペラ座の怪人」を造り上げたのはマダム・ジリーといえるのではないか。
マダム・ジリーにはメグという娘がおり、クリスティーヌの友人という役割を与えられているが、メグの父親=「マダム・ジリーの夫」の存在は語られていない。


シュマッカー版も劇団四季版もオペラ座のスタッフたる人物は支配人を除けば
指揮者、演出家と、バレエの教師であるマダム・ジリーぐらいしか登場しない。
とすればやはりオペラ座での舞台の作曲はすべて怪人の作り出したものであったのか。
ラスト近くで、猿のオルゴールから流れる「マスカレード」のメロディーを口ずさむ素顔の怪人。
(「マスカレード」も怪人の作によるものだったのか?)
ならば怪人はオペラ座の運営になくてはならない人物であったというわけだ。
しかしそのオペラ座も事件のために火が放たれた、その後はこれほどの事件を起こしてしまって復興しなかったのではないか。

ラスト近く、ラウルとクリスティーヌ二人の心に打たれた怪人は二人を逃がし、自分もどこかに消えてゆく。
クリスティーヌはこの後ラウル子爵夫人となり、二度と舞台には立つことはなかったことだろう。


サイレント版ラストは馬車でクリスティーヌをさらって逃亡を図った怪人。
しかしクリスティーヌを馬車から落としてしまい走って逃げる。
クリスティーヌは婚約者に保護される。怪人は群衆に取り囲まれてしまい暴行を受け、川に投げ落とされてしまう。
そこで唐突にラスト。
やはりゴシック・ホラーたる作りで、悪役の怪人が退治されることがすべてといった終わり方。


劇団四季版では椅子に座った怪人が黒い布を全身が隠れるようにかぶり、
メグ・ジリーが布を取ると、そこには怪人の姿はなく、マスクだけが残されているという、やや唐突な終わり方。


シュマッカー版ラスト、墓の前に立つラウル。その墓は・・・クリスティーヌの墓だった。
墓前に猿のオルゴールを供えるラウル。
その日、オークションの日はクリスティーヌの命日だったのだろう。
ラウルが目を落とすと、墓に指輪に通した薔薇の花が一輪、供えられていた。
年老いたラウルの表情は少しおびえたように見える。
薔薇はモノトーンから次第に紅い色がついてゆく。
真紅の薔薇はシュマッカー版において怪人を象徴させるモチーフである。
このラストを見て自分は「ああ、怪人はどこかで生き延びていたんだ」と安堵のような気持ちになり、
怪人のクリスティーヌに対する永遠の愛が印象付けられた
シュマッカー版のほろりとさせるラストを気に入った。



↑劇団四季公演見に行った時のお土産、皮製の熊のぬいぐるみ。
ちゃんと仮面を被っている。



怪人に死んだ父親を重ね合わせたクリスティーヌ。
その愛は恋愛というよりはむしろ父と子、そして歌の教師と生徒。
しかし怪人はクリスティーヌに、それを超えた恋愛感情を抱いていた。
その醜さゆえに母親にもキスしてもらえなかった怪人。
このお互いの恋愛感情のズレがこの悲劇を生んだのではないか。
作曲者ウェーバーと妻(前妻)で歌手のサラ・ブライトマンの関係がそのまま怪人とクリスティーヌの関係につながるなど、
まだまだ興味深い部分がある作品である。

オペラ座の怪人 (創元推理文庫 (530‐2))

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(20050925)

●シュマッカー版
2004年アメリカ
監督・脚本:ジョエル・シュマッカー
製作・作曲・脚本:アンドリュー・ロイド・ウェーバー
出演:ジェラルド・バトラー、エミー・ロッサム、パトリック・ウィルソン



●劇団四季版2005年8月12日公演分出演者
オペラ座の怪人:村 俊英
クリスティーヌ・ダーエ:高木美果
ラウル子爵:佐野正幸
カルロッタ:岩本潤子
メグ・ジリー:大月悠
マダム・ジリー:秋山知子

オーケストラ指揮:今井治人



●サイレント版
1925年アメリカ
監督:ルバート・ジュリアン
出演:ロン・チャニー、メアリー・フィルビン、ノーマン・ケリー



●劇団四季版2006年2月12日公演分出演者
オペラ座の怪人:高井 治
クリスティーヌ・ダーエ:沼尾みゆき
ラウル子爵:北澤祐輔
カルロッタ:種子島美樹
メグ・ジリー:荒井香織
マダム・ジリー:戸田愛子

オーケストラ指揮:井上博文



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