No.127
昭和58年11月、ザ・コブラ日本デビュー戦の真実


↑別冊ゴング昭和58年12月号より

当日の状況について克明に記録されたノートが発見された。
コブラ対ザ・バンピート戦は文中にもあるようにテレビ放送時に大幅なカットがあったため
これほど克明な試合内容を記録した文章が発表されたことは現在まで皆無だろう(だから何なんだ)。
といってももう20年以上前の試合です(笑)。

ザ・コブラ対ザ・バンピート(NWA世界ジュニアヘビー級王座決定戦)

ともに日本初登場の覆面レスラー同士の対戦。
「赤コーナー側より、ザ・バンピード選手の入場です!」
若手に先導されて覆面をかぶったバンピードが入場してきた、さあ正体は誰だ?
自分はリングに登場したバンピードを注視した。
白地に赤の縫い取りのあるマスク、その下にははち切れそうな筋肉を埋め込んだ白い肌。
ブルーのロングタイツのせいかスマートに見える脚。
「白人だ・・・」
当初の印象ではカネックに近い姿を想像していたが、
バンピートの肌は浅黒いメキシカンのものとは程遠い色白で、
胸の筋肉、背筋の筋肉の盛り上がり方はむしろダイナマイト・キッドに近い印象を感じた。
ダイナマイト・キッド?ブルーのロングタイツ、巨大な背筋、引き締まったボディ・・・
似ている!キッドに似ている!しかし自分はそれを口には出さなかった。
というのはキッドはあの名勝負を生んだタイガーマスクに対してさえ
「あんな虎覆面」といっているように常々マスクマンを蔑視するような発言をしており、
そのような選手が自ら覆面レスラーに変身するということは考えられないと思ったからだ。
とすれば何者?

「青コーナー側より、ザ・コブラ選手の入場です!」
青コーナー側の通路から白煙が見える。
白煙の中タイガーマスク、ミル・マスカラスなどの覆面をつけた従者らが担ぐ御輿に乗ってザ・コブラが入場してきた。
銀ラメの入ったマスク、白いジャケット、黒を基調としたロングタイツ。
自信ありげな雰囲気。マスクマンが担ぐ御輿に乗っているということは既成のマスクマンを超えるということを意味しているのか。
タイガーマスクなきあとの新日本の、救世主となりうることを暗に示しているのか。

ザ・バンピートがリング上を徘徊する。
コブラはコーナー最上段に登りそこからバック転してのリングイン。
バンピードはコブラを指差してレフェリーになにやらアピール。
コブラも胸を張って応戦の構え。

その時!バンピードがいきなり覆面を脱ぎ捨てた!
マスクの中から出てきたのは無愛想そうな短い金髪の、鼻の高い白人の顔だった!
「キッドだ!」
観客の誰かが叫んだ。覆面を自らの手で脱いだバンピードはコブラに突進し、腹にトーキックを打ちリング下に蹴り落とした。
なおもコブラをリング下に追い、場外フェンスに振って彼の背中をしたたか鋼鉄製の柵に打ちつけた。
キッド、キッド、キッド、キッド、観客からキッドコールが沸き起こる。
ファンは非情にもこれからヒーローになるはずのコブラにそっぽを向き、
自分から覆面を脱ぐという劇的な登場をした引き立て役?のバンピード?キッド?に声援をおくり出した。
ふらふらとエプロンに上がったコブラの首を腕で巻いたキッド?はそのままロープ越しにブレンバスターを決めた。
まだゴングは鳴っていない。起き上がったコブラを今度は両の腕だけで目よりも高く持ち上げた、人間起重機だ。
キッド?は持ち上げたコブラを場外に投げ落としたあと、
立てひざをついて上腕の筋肉を誇示する怪力ポーズを見せて観客席にアピール。
ジュニアヘビー級とは思えないパワーと迫力に観客は魅せられっぱなしである。

「いや、キッドじゃない」
自分は言った。
「えっ、キッドじゃないの?」
友人が聞く。
確かにキッドに良く似ているがやや大きい。新春黄金シリーズに参加が予定されているカナダの「まだ見ぬ強豪」・・・
「デービーボーイ・スミスだ」
「えっ、スミス?」
「キッドのいとことかの選手だ」
この興行以前にテレビ放映されたカルガリーの試合で見たことがある、間違いない。
そして自分の予想通りリングアナは彼をザ・バンピードではなく「デービーボーイ・スミス」とコールした。
コブラはスミスの先制攻撃によりダメージを負ったらしくコーナーで苦しそうに立っていた。
果たしてこの状態で伝説と化したタイガーマスクのデビュー戦に匹敵しうる試合ができるのか、自分は疑問に思った。
騒然とした雰囲気の中で試合開始を告げるゴングが鳴った。

ここまではその前に行われた正規軍対維新軍の綱引き抽選の興奮を引き継いで余りあるボルテージの高さだった。
自分は当然コブラが先ほどのスミスの先制攻撃に対する報復を仕掛けて
タイガーマスクのデビュー戦と同じくスピーディーな試合展開になりどちらが勝つにしろ10分前後で決着すると予想した。
しかしコブラは怒りの表現をすることもなくいきなりスミスをグラウンドに誘い込み、そのままキーロックを仕掛けた。
コブラはキーロックのままローリング。観客が期待する目新しさは出てない。ロープブレイクのあとコブラのローリングソバット。
がこれもタイガーマスクのような切れ味鋭いものではない。
スミスは何とか乱戦に持ち込みたいようでスタンドになるとパンチ、キックを多用するのだがコブラは乗ってこない。
コブラのドロップキックでスミスが場外に落とされた。外で体勢を整えるスミスに向かってリング上のコブラが走った、
トペ敢行か!しかしタイミングが合わなかったのか、コブラは飛ばない。
観客爆笑。この辺から観客のコブラに対する期待感は薄らいでいったようだった。

リングに戻ったスミスに今度はコブラが足4の字固めをかけた。リング中央で両者の動きが完全に止まった。
タイガーマスクの試合のようなスピーディーな展開を期待していた客席の不満感がだんだんと増幅していくようだ。
足殺しから脱出したスミスはコーナー最上段に登った。
ダイナマイト・キッドも得意とするミサイルキックだ。コブラも下から応戦して突き上げるようにドロップキック。
しかし間が悪くこれもうまく決まらず。
ついに「帰れコール」が聞こえた。
新日本期待の新キャラクターの日本デビュー戦としては信じられないことだった。
「中だるみだな〜」
友人が言った、もう一人もやや不満げな表情で苦笑。
今度はコブラがコーナー最上段へ。今度は飛んだ、プランチャー!
しかしスミス、舞い降りるコブラの顔面にひじ打ちを当ててクリア、苦しむコブラ。
「ハッ!」
握りこぶしを天に向かって高々と上げてアピールするスミス。
起き上がるコブラにパンチの連打。コブラ隙を突いてするりとバックを取るとスリーパーホールド、
そのままグラウンドに引き込む、また両者の動きが止まった!

XXX!XXX!XXX!

コブラの正体の名前がコールされた。
長い時間のスリーパーをやっとのことでほどいたスミスの上半身は真っ赤に紅潮、このスリーパーはかなり効いた模様。
ふらふらのスミスにコブラ背後からのドロップキック、スミスまた場外へ。
コブラロープに走る、大技炸裂か!反動を利用して場外のスミスめがけてノータッチダイブ!
恐るべきジャンプ力!
しかしスミス!間一髪でこれを受けずに交わす!
目標を失ったコブラは自爆、両膝を場外の床に、顔面を場外フェンスの上部に強打、観客失笑。
場外戦、コブラの頭をヘッドロックに決めたまま鉄柱に突っ込むスミス、コブラ突き放す、
鉄柱に自ら突っ込んで場外の床に崩れ落ちるスミス。
コブラは両膝に大ダメージを受けたらしく立ち上がれない。
リングに這い戻るスミス、コブラもようやくあとを追ってリングイン、スミスがキックの連打、
しかしスタミナ切れ。コブラは膝のダメージが大きく痛そう。
両者とも苦しそう、コブラが力を振り絞ってスミスをロープに振る。両者肩から突っ込む。
バン、と当たって倒れる両者、ダブルノックダウン。

コブラの胸が呼吸で波打つ。レフェリーがカウントを続ける。
壊れたゼンマイ人形のようにぎこちなくゆっくりと両者が立ち上がる。コブラは足を押さえている。
ゆっくり近づいたスミスを捕らえたコブラが再びスミスをロープに振った。
振られながらもタックルを狙うかのように突っ込んでくるスミス、コブラも突っ込む、リング中央で二人のからだが交錯した!
バキッ!
骨と骨あるいは肉と肉がぶち当たる異様な音が場内に響いた。
コブラのフライング・ラリアートが見事にスミスの喉元に命中、
衝撃音もさることながら当たったときの反動でコブラの体が空中で一回転するほどの迫力だった。
ラリアートの衝撃とダウンした時の後頭部の強打でスミスは動かなくなり、
それを見届けたコブラはピンフォールの体勢に入ると同時に、右手でXサインをした。
しかしそれはもちろん「余裕」と見てとれるものではなかったので、観客は再び失笑した。

20分3秒、体固め。タイガーマスクが返上した王座はザ・コブラの手に渡った。
試合後、膝の負傷で歩くことができなくなったのか新チャンピオンのザ・コブラはセコンドの背におぶられて控え室に消えた。

後日のテレビ放送でもコブラ対スミスの一戦は
最初のゴングが鳴った直後からフィニッシュシーン直前までの部分は全てカットされていてハイライトシーンを編集したものを放送していたので
ザ・コブラの日本デビュー戦の真相は当日会場で観戦した1万3千余の観客のみが知るところとなった。
スター選手はそう簡単に誕生しないものだ、ファンの支持を得るものを作るのは一筋縄ではいかない、そう思った。

(2004・0321)

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