No.381
三沢光晴選手の死、そしてプロレス、ノアの今後

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平成21年6月13日、広島の試合(GHCタッグ選手権)において
対戦選手のバックドロップを受けた三沢光晴選手はリング上で心肺停止状態になり
同日午後10時10分、死亡が確認された。
プロレスリング・ノアの社長兼トップレスラーのリング渦は大きなニュースとなり
スポーツ新聞の1面は軒並み事故の報道を記載し、一般新聞でも報道され、
また日本テレビ以外の民放のテレビニュースでも報道された。

6月16日付け(15日発売)の東京スポーツ1面の記事によると
「死因は『頚髄離断』と見られる」そうだ。

まず、リングドクター不在という状況での団体の管理責任についての意見もあるが、
結果からすると『頚髄離断』では呼吸運動のための神経が切れてしまいすぐ呼吸が停止してしまうそうなので
(つまりそれほど生死に関わる重傷だった)
酷な言い方だが、現場にドクターがいても死亡は不可避だったと思われる。

だからと言って興行にリングドクターが不要と言っているのではない。
プライド以降の総合格闘技の興行では試合開始前に必ずリングドクターの紹介があった。
昨今の右肩下がりのプロレス業界では経費のかかるリングドクターの常駐は難しい問題であろう。
掲示板常連のふるきちさんのブログでも「リングドクターの常駐は難しい」とある。
新日本、全日本、ノアの主要3団体で話し合いが行なわれているというコミッショナー制度が確立すれば
リングドクターの常駐問題について考え、試合中の緊急事態、あるいは試合前のメディカルチェックで今回のような事故は
100%とは行かないかもしれないがかなりの発生を回避できるのではないか、と考える。
今年に入ってインディー団体の練習中に半分会社員の「セミ」プロレスラーがダブルインパクトを受けて死亡する事故も起きている。
この事故と、「受身の天才」とまで言われた三沢選手の今回の事故を単純比較するつもりではないが、
コミッショナー制度確立によるリングドクターの常駐、試合前の診断(場合に寄れば試合出場ストップも勧告できる権限)、
さらに未熟な技術の選手の試合出場による事故を防ぐためのプロテスト、ライセンス発行などを3団体は早急に議論すべきだ。

歴戦のダメージの蓄積、団体社長としての仕事などから三沢選手はかなり体調が悪かったのでは。
春に日本テレビが地上波放送を終了させたのも少なからず心的影響があったかも知れない。
それでもノア一方の雄、小橋建太も腎臓ガンの手術後の体調問題もあって
晩年のジャイアント馬場のように常に真ん中ぐらいの試合をこなすというわけには行かず、
メインあるいはタイトル戦線の試合をこなさなければならなかったのだろう。
三沢選手の後を張って看板となる選手は育たなかったのか。

ライバル団体新日本プロレスはすでに世代交代に成功したようで
今でこそ中西学が悲願の初IWGP王座に君臨しているがそれは一過性のように感じられ
(元アマレスエリートとして入団し、K-1でTOAと対戦したり
アルティメット・クラッシュに出場したりと会社に貢献した長年の貢献度を考慮しての王座戴冠では?)、
中西らと共に「アマレス三銃士」と謳われた永田裕志はメインストーリーからはずれ
(しかし試合は面白いし、「白目」でバイプレーヤーとして新境地を開きつつある)
その後の世代はGBH乗っ取りを画策した中邑真輔こそ低迷しているようだが、
中邑と前王者・棚橋弘至をメインに置く体制は確立した感がする。
対するノアは、丸藤正道の成長ではまだ物足りなかったのか。
それとも「ヘビー級」の中心選手こそ必要、と考えていたのか。
そういう意味では秋山準がヘルニアにより返上したGHC王座を
決定戦で勝利して戴冠した潮崎豪が促成栽培と言われないことを望む。

そして・・・三沢選手が最後に受けた技はバックドロップ。
「鉄人」ルー・テーズの必殺技であり古典的大技である。
フィニッシュがこの技だったことに固執するつもりはない。テーズは大抵の試合で一発で決めたことだろう。
馬場が社長だった時代、
長州、天龍が去った後の全日本プロレスから始まった所謂「四天王プロレス」。
脳天落とし連発タフマンコンテスト。カウント2.9の攻防。
複雑なクラッチで頭から落とす技の連発。
さらに「雪崩式」と呼称されるトップロープからのバスター。
そして 「奈落式」、エプロンからマットを敷いただけの場外の地べたに頭から叩きつける技。
技が危険になればなるほどヒートアップする観客。
これがスタイルと言われれば仕方ないが、それは果たしてプロの「レスリング」なのか。
危険な脳天落としスタイル、それに呼応する「進化した受身」とやら・・・。
「受身の天才」が事故にあった以上、スタイルはこの辺りが限界なのではないか。

昔のプロレスは一発大技が出たら、それで試合はフィニッシュになった。
それでも観客は満足した。
技がいつ出るか、いつ出るか、というサスペンス的な要素があった。
そしてフィニッシュに至る大技の印象度。
正直言ってひと試合に何発も大技が飛び出す昨今の試合は「一発」の印象度が薄い。
大技が連発されるから試合後フィニッシュがどの技だったのか判らなくなることもしばしば。
投げる側と投げられまいとする側の攻防が魅せられる試合でもいいのではないだろうか。

近年の業界の底冷え、リアル格闘技の台頭、スター不足、有名外国人選手が殆どWWEが囲っているという現状。
日本のプロレスは根底から大改革する必要があるのではないだろうか。
打撃を含めた「世界最強」は総合格闘技やヒョードルでもいいではないか。
「最強」はヒョードルに譲ろう、それでいいじゃないか。
もう「プロレスが最強」という幻想から脱却しよう。
そして今こそリアルファイトのプロのレスリングを始めるべきではないだろうか。

いつぞやのプライドでの桜庭和志対カーロス・ニュートンはグランドで目を見張る攻防を見せた。
最近ではDREAMに出場している青木真也のサブミッションが面白い。
低迷しているとはいえ、所英男の回転がんじがらめ知恵の輪試合も魅せられる。
ヘビー級でこのような試合は難しいかもしれないが、
観客をだんだんと慣らしていく必要があるのでは。
レスリングだから打撃はなし。
ピンフォールは・・・もちろんありだ。
新UWF・リングスで前田日明に、Uインターで高田伸彦に声援を送りながらも何か釈然としなかったのは
「U系にはフォールがない」からだった。
フォールがないのにレスリングと呼べるか(広義のレスリングというわけではなくて)?
相手の肩や背を地に着けて勝利となすのは、戦場ならそういうふうに相手の自由を奪ったのなら、
武器で相手の首を掻き切れるからだ。
ピンフォール勝ちは誇りである。
それでも・・・場外戦、凶器攻撃、打撃、トップロープからの攻撃を敢行した選手には、
1回につき何%かの「ギャラ没収」で対処すればいいのでは。
ともかく、日本のプロレスは今こそ「脳天落とし連発タフマンコンテスト」からリアルファイトのプロレスリングに転換するべきだ。
本田多聞を別にするとグランドの攻防があまり見られないノアのスタイルが、急激に変化するのは難しいと思うが。

方舟は何所へ行く?
ご存知だと思うが「ノア」とは方舟の名前ではなく、方舟を造った者の名前だ。
つまり「ノア」こそ三沢選手だったのだ。
さまよえる方舟の次期社長は仲田龍氏か、百田光雄氏か?
深夜枠30分放送とはいえ、日本テレビの地上波放送を失ったのは大きい。
そこにトップレスラー、社長の死。
三沢選手は単にノアの社長だったわけではない。
全日本プロレスは三沢選手以下の大量離脱後、
武藤敬司社長の下、馬場社長時代とはまったく変わった団体へと変貌した。
その功罪は各人の主張様々だと思うが、三沢選手は馬場全日本のファンの精神的支柱となり得た。
つまり王道の継承者だったのだ。
そしてプロレスリング・ノアは王道継承者の団体。
その継承者がいなくなった団体。
馬場死去の後の全日本のようにならないことを望む。
しかして、当面は外交政策をしなければならないのではないだろうか。
だが対抗戦の目玉を失った方舟に対し新日本はどう出るか?
体調不良の小橋に連戦を強いるのは酷であるし、秋山は新鮮味がない。
新王者潮崎の活躍を過剰に期待していいものだろうか。

兎にも角にも大レスラー三沢の試合中の事故死は衝撃だった。
長々と書いたが望むのは、リングドクターの常駐、試合前の健康管理のチェック、
「脳天落とし連発タフマンコンテスト」的試合進行の廃止、リアルファイトへの転換、これが全てである。
出来なければ総合格闘技により完全に駆逐される日が来るかも知れない。

三沢選手の冥福、さらにこの事故を教訓として(おいらの意見が反映されるかは別として)
日本のプロレス界がいい方向に向かってくれることを祈り筆を置くこととする。
あまり三沢選手個人についての主張が書けなかったことは申し訳ない。

(09.0616 )

千里眼作:「2009年6月13日・三沢光晴を襲った死亡事故について考えたこと」はこちら

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