09年に話題になった講談社現代新書「落語論」の誤植。
P52に「『大相撲』の始祖は、谷風梶之助である。
天明寛政(註1)年間の力士である。それ以前の最初の三人の横綱、
明石志賀之助、綾波レイ、丸山権太左衛門、
は架空の横綱である」
とある。
…「綾波レイ」は「エヴァンゲリオン」の主要登場人物。
青い髪、赤い目の14歳の女の子でエヴァンゲリオン零号機のパイロットだが、
マルドゥック機関により過去の記録を抹消されている謎の多い存在。
クローン人間であるかのような描写もある。
綾波の所に入るはずの第二代横綱名は綾川五郎次。
東京都江東区の富岡八幡宮の「横綱之碑」を確認してまいりました
(上の写真参照)。
綾川は土俵歴の多くが未詳だとされ、「落語論」にあるように
明石、丸山同様その存在自体が疑われている。
「落語論」には
「横綱始祖は谷風梶之助であることがあきらかなのに、
二十一世紀になっても、最初の架空三代を入れたまま
横綱の歴次を数えている。
天皇家のアナロジーのようである。
おそらくそのとおりなのだろう」とある。
横綱の始まりは寛政3年に谷風梶之助と小野川喜三郎が同時に横綱となり
11代将軍徳川家斉の上覧相撲の土俵で綱をつけ土俵入りしたことが最初だとされている。
ちなみに当時は番付上には横綱はなく大関が番付上最高の称号であり、
「横綱」は吉田司家が認可した横綱免許を持つ大関に対する名誉称号だった
(例えば史上最強力士、という話題になると必ず登場する
大関・雷電爲右エ門‐生涯黒星僅かに10、勝率9割6分2厘、
優勝相当28回<25回説もあり>‐は横綱にはならなかった)。
番付に横綱が登場し、地位としての存在となるのはずっと後の明治時代。
天皇家の系譜はともかくまあ
サイトの趣旨とは関係ないのでここでは語らないとして、
「歴代NWA世界ヘビー級王者」ってのもそんなものだろう。
何しろルー・テーズ対オービル・ブラウンによる王座決定戦により
NWA認定の世界王者が誕生する以前、からの選手を
過去の歴代NWA世界王者としてカウントしたのだから
(王座決定戦はブラウンが交通事故による負傷でテーズの不戦勝になったらしい)。
フランク・ゴッチ、フレッド・ビールらが実在したレスラーだったということが
谷風以前の三人の横綱と違いやや救いがある点だが、
「過去の事例を持ち出しての権威づけ」という点では変わることない話。
また話は飛ぶが、ウイキペディアによると
「綾川五郎次」は大正時代(最高位関脇)、
戦前の昭和(綾櫻由太郎から綾川五郎次に改名、最高位関脇、綾櫻時代に幕内優勝1回)
にも存在したそう。
特に戦前昭和の綾櫻の綾川は昭和12年6月の準本場所
(当時は本場所が年2回開催で、そういう興行があった。
今で言うなら日本大相撲トーナメントみたいなものか)
で当時69連勝の途中だった大横綱双葉山を外掛けで倒しているそうで、
これが本場所で69連勝をストップさせた
同じ出羽一門の安藝ノ海に影響を与えた可能性も否定できない。
それにしても「横綱・綾波レイ」何ともすごい誤植だ。
「綾」と入力すると「綾波レイ」と出るようにパソコンに単語登録されていたのか。
それとも同じ時期エヴァンゲリオンがらみの仕事が動いていて、
うっかりパンチミスしてしまったか。
あの女の子が横綱…って笑ってしまう。
ここから先は妄想の「大江戸エヴァンゲリオン」。
興味のない方は飛ばし読みして下さい。
第五使徒殲滅のために日本中の電力を集結させた「ヤシマ作戦」、
防御を担当した綾波レイの零号機は
使徒のビームの直撃を受け絶体絶命。
しかし初号機のポジトロン・ライフルが炸裂し、使徒は轟音とともに崩れ落ちた。
綾波を助けようとカプセルを開いた碇シンジだったが、
そこには綾波とは似ても似つかない着物姿の大男が、寝ていた。
赤木リツコ博士は過度な破壊力のエネルギーが時空を歪め、
二重のタイムワープが発生した、と分析した。
男は「綾川」と名乗った。江戸時代の力士だった。
仕方なくネルフ本部内に隔離された綾川、毎日大飯食って寝ている。
葛城ミサトはほんの偶然から古書店で「落語論」という古文書を手にし
その中に「横綱〜綾波レイ」と記載された一文を発見した。
彼女は何か不思議な力が働いていることを感じその本を購入する。
冬月は詰将棋をしながらゲンドウに
「ゼーレのシナリオとは少し違うようだな、
レイのうつわは換えがあっても魂の換えはないからな」と言うが
ゲンドウは「冬月、少し頼む」と言ってエレベーターで去ってしまう。
「まだ生きてる…」
気付いた綾波レイは江戸時代にワープされたことを悟る。
そこは商人の家「碇屋」、力士の綾川が宿泊していた部屋だった。
綾波は碇屋の少年に世話される。
「気がついた?お、俺、新次郎。君は…綾川?」
「レイ…綾波レイ」
「あ、あや…なみ、そう!綾波かぁ!何か食べる?」
「…にんにくラーメン、チャーシュー抜き」
「な…何、それ?南蛮の食べ物?」
「にく、嫌いなの」
「…」
勧進元は力士が突然不思議な服を着た女子に化けてしまったため仰天。
しかし「もしかしたらこっちを土俵に上げた方が客が集まるかも知れない」と考える。
説得された綾波はわけがわからないまま土俵に上がることを承諾し、
プラグスーツを脱いで廻しをつける。
が綾波は14才だが女。
全裸に廻し姿はあまりにも刺激が強すぎるため
新次郎を含め野郎どもは股間を押さえる者が続出。
仕方なく(?)プラグスーツを着てその上から廻しをつけた。
土俵に立った綾波は相手力士の突進をA.T.フィールドで弾き飛ばして
相手力士に触れもせず連戦連勝。
勧進相撲が行われている富岡八幡宮には
強豪・綾波を見ようと連日客が押し寄せる。
「強いんだな、綾波は」新次郎は言う。
「わたしにはそれしかないもの」しかし新次郎と綾波の距離は近づく。
ある日町中は大騒ぎ。
海から化け物があがって来た、と逃げる人々。
山を越えて巨大な人型の物体がズシン、ズシンと歩を進める。
光線を発射し人家を焼き尽くす。
「な、何、あれ?」驚く新次郎。
「使徒?…まさかこんなところで…」つぶやく綾波。
「逃げよう、綾波!」新次郎が綾波の手を引いて走る。
しかし人型の物体はまるで目的があるように新次郎と綾波を追い始める。
物体は光線を発射しようとする。
「碇屋くん、あなたは死なないわ、私が守るもの」
人型物体が光線を発するのと同時に振り向いた綾波はA.T.フィールドを最大限に展開。
光線はA.T.フィールドにより反射され大爆発が起きる。
「綾波っ!」叫ぶ新次郎。
だが爆発がやんだ時、綾波も人型の物体も消えていた。
跡には着物姿の力士綾川が、いびきをかいて寝ていた。
「綾波…」新次郎の胸の中にはあの不思議な少女の思い出が刻み込まれた。
綾波はネルフ本部内で保護された。
爆発が再びタイムワープを引き起こし、
綾波は自分の時代へと戻ったのだった。
力士・綾川はどこかへと消えていた。
「よかったあ…綾波…生きてて」シンジが涙を流す。
綾波は「何泣いてるの…ごめんなさい…
こういう時、どういう顔していいか、わからないの…」と言う。
するとシンジは「(嬉しい時は、普通は)笑えばいいと思うよ」と答える。
綾波がその言葉を聞いた時、その脳裏に一瞬あの「新次郎」の顔が碇シンジと重なり
そして綾波はかすかに、しかし自然に微笑んだ。
その後綾波から詳細な報告を受けたゲンドウは
妻でありシンジの母親だった碇ユイの遺品の中から発見された「碇家」の家系図を見る。
碇ゲンドウはユイと結婚してから「碇」姓を名乗ったのだった(旧姓・六分儀)。
そしてゲンドウは寛永時代の碇家の先祖に「新次郎」の名前を見つける。
「そうか…ユイ…」
葛城はシンジとレイを伴いちらかった我が家へと帰宅し、
彼らにあの「落語論」を見せようとした。
しかし本は葛城のペットの温泉ペンギン、ペンペンのおもちゃと化していて
無惨に食いちぎられ部屋に散乱していた。
三人は切れ切れになった本の残骸をかき集めてみたが、
どうしてもあのページだけは見つけることができなかった。
‐完‐
妄想に最後までお付き合いしていただきありがとうございます。
それから、今回の誤植に関係した方へ。
あまりにも面白いのでネタとして使ってしまいましたが、
この後は各方面に謝罪、始末書の提出などさぞ大変だったことでしょう。
でも自分はこういうトラブルに遭遇してしまった
あなたのお気持ちは解るつもりであります。
悪い事ばかりは続きませんから。
「明けない夜はない」。
註1:天明は西暦では1781年〜1788年、江戸幕府の将軍は10代徳川家治、11代徳川家斉。
同じく寛政は1789年〜1800年、11代徳川家斉の時代。
(09.1122)
参考資料:
講談社現代新書「落語論」堀井憲一郎 2009年
ウイキペディア
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