No.254
千里眼作「技」鉄人ルー・テーズのバックドロップは究極のトラップ
千里眼作のテーズのバックドロップ分析。名文&名解析なのでほぼそのまま掲載する。
プロレスファンならルー・テーズと言えばバックドロップ、
バックドロップと言えばルー・テーズっていうくらいお約束なセットになっているはず。
その「テーズのバックドロップ」が
いかに他のレスラーが使うものとは違い一撃必殺な大技であるものなのか、先日複数のDVDを見ながら研究してみた。
鉄人研究といえば評論家の流智美先生が有名であるが、流先生に負けない研究成果にまとめられると良いのだが・・・。
というより千里眼が見たDVDのうちひとつは流先生ご監修による「世界のプロレス・レトロ編 鉄人ルー・テーズ・完結編」というもので、
特にその中のエド・カーペンティア戦が「ここ一番にバックドロップ爆発の名勝負である」と流先生も特に推奨する一戦なのである。
もうひとつ参考にしたのは「力道山対テーズの後楽園球場での日本初対決」を収録した「ルー・テーズ対力道山 世界選手権争奪戦」というもので、
こちらはフォールこそ取れないしやや不完全ではあるが、日本で初めて本家鉄人のバックドロップが披露された試合、として有名であろう。
奇しくも両試合は同じ1957年に行なわれており、最初に同年に行なわれたカーペンティアとの対決が疑惑の試合となり
(王座はカーペンティアに移動したという説もあるくらいらしいのだが)
DVDに納められているのは問題の試合のリターンマッチとして8月17日にシカゴで行なわれたもの。
で、その後テーズは世界王者を名乗りワールドツアーに出掛け、各地で強豪を打ち破り、
日本の後楽園球場で力道山と10月7日に激突した時の映像がもうひとつのDVDに納められているものである。
巨大カルテルNWAが世界中(特にアジア)をターゲットに新たなマーケットを開拓しようとしていた一方で
本国アメリカでは王座分裂の兆しが皮肉な同時進行、という時代背景だったわけだ。
まず力道山戦から見ると、当時プロレス未開拓の地、日本での試合であることをテーズが充分考慮したのが伺える試合運びだと思うが、
試合序盤はテーズによるプロレスのルール説明みたいになっていた。
パンチは反則。髪の毛を掴むのも反則。
手首か足首がロープに触れたらブレイク。などなど、ひとつひとつ丁寧に観客に解りやすくルール説明してあげている、という流れだ。
その中で更に巧みにもパンチは反則だが、
力道山の平手による空手チョップはルール違反の喉への攻撃ではなく、
有効な打撃技であることを(わざわざコミッショナー代理のアル・カラシックへのテーズの抗議アピールという形で)説明してみせている。
ところでテーズは試合中、ロープ際で細かい反則で力道山を困らせる。
わざとロープにもつれて脇腹に膝や肘を入れるあのムーブだ。
これがバックドロップへの伏線だ、と見た。
つまり相手はロープ際で試合したくない。リング中央でしか試合しないようにさせる。
それにテーズが細かい反則をちょこちょこやらないように動きを封じるような固め技をかけたくなるように誘導する。
テーズの描いたとおりなのか、試合は次第に双方がキーロックやレッグロックといった固め技の応酬に移り、
そして力道山がリング中央でヘッドロックを仕掛けてしまう。
「リング中央」で「ヘッドロック」。これはもうバックドロップやってください、と言っているようなものではないか。
ただ、DVDをご覧になれば解るとおり、この試合は必ずしもバックドロップがどうなるか、の1点に絞って構成されている試合とは言えない。
今回語りたい「ポジショニング」の問題は次のカーペンティア戦で述べたい。
カーペンティア戦は残念ながら1本目の映像が欠落しているので、いきなり2本目の問題のヘッドロックの攻防が始まる。
テーズは力道山戦と同じく細かい反則攻撃を繰り返し、業を煮やしたカーペンティアは禁断のヘッドロック攻撃に出てしまう。
しかしテーズはすぐにバックドロップに行くわけではない。
まずカーペンティアのヘッドロックが強力であり、どうやっても脱出できない、というシーンを繰り返して観客に見せるのである。
これで観客には「ヘッドロックから逃れるにはアレしかない」という期待感を抱かせるわけだ。
しかしカーペンティアには「今度ばかりは俺のヘッドロックでテーズも完全グロッキーだ。」と油断させるわけだ。
長時間のヘッドロックの攻防で、そろそろアレだな、と観客が期待する時間帯になった時、
テーズは仕上げとして「ポジショニング」に入るのである。
強烈無比なバックドロップもロープ際で仕掛けては相手にロープに逃げられてしまう。
リング中央で技を仕掛ける必要があるわけだ。
しかし強引に相手をリング中央に連れて行こうとすれば「こいつ、バックドロップやろうとしてるな」と感づかれてしまう。
あくまでも最後まで相手を油断させたまま、不意打ちで強烈な一撃を仕掛ける必要があるのだ。
そこでテーズはまず逆方向のロープ際に体を移動させる。
そしてロープブレイクでヘッドロックをブレイクしようとする。しかも何回も。
これが「罠」なのであろう。カーペンティアはブレイクされまいとヘッドロックの体勢のまま、
テーズの長い手足がロープに届かないようにリング中央へ引き摺りだそうとする。もうテーズの思うつぼ、であろう。
試合はヘッドロックの体勢のまま自ら無防備でリング中央に出てしまったカーペンティアに、直後に芸術的な一発が炸裂するのである。
DVDでは流先生が
「テーズがどうやってバックドロップを仕掛けるのか、じっくりご覧ください」と述べているので、
ついそのようにじっくり見ていたらこんなことに気が付きました。
なので流先生には感謝、でありますね。
一つの技を出すために試合の流れを組み立てる。
今そういう試合ができるレスラーはいるのだろうか。
それにこういう試合は観客にもただ興奮するのではなく、「考える」「予想する」「推理する」ことを要求するもので、千里眼は大好きである。
参考資料
「世界のプロレス・レトロ編 鉄人ルー・テーズ・完結編」 (株)クエスト
「ルー・テーズ対力道山 世界選手権争奪戦」 東映ビデオ(株)
テーズのプロレスにおける師匠の一人がエド“ストラングラー”ルイス、
殺人技ヘッドロックで1920年代世界王座を何度も奪取した選手である。
ルイスが教えたか、テーズ自身が考案したかは不明だがテーズがヘッドロックを熟知してたのは間違いない。
そしてテーズのバックドロップがヘッドロックを起点にしている技だという事実。
これこそまさにテーズのバックドロップが唯一無二の存在であることの証明だろう。
後年のバックドロップを得意とするといわれる選手の殆どが、
そのようなトラップを組み立てることなしの、「後ろから組み付く」スタイルからの投げである。
(この部分切鮫)
(2005.1229)
参考:「ルー・テーズ」はこちら
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