「東京残酷警察」イメージ再構築の世界観と映像美。

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流血ぴゅーぴゅースプラッター&特殊造型が映像メインの映画です(成人指定)。
大量の残酷・流血・不快な描写があるので血が苦手な方、虫が嫌いな方にはお勧めできません。

脱出口へ

<あらすじ>近未来の日本、警察は民営化され武装を強力にし
「エンジニア」と呼称される謎の殺人ミュータントの完全殲滅を目論んでいた。
警察官だった父が殉職しエンジニアハンターとなったルカは
エンジニア「キーマン」と出会い、過去の記憶を甦らせる。

スプラッター映画は本来趣味ではないので普段積極的に見ようとはしませんが
映画雑誌で見て造型、世界観などに興味を持っていたのでDVD購入。

本当にスプラッターのシーンが多く残酷で、斬られた体から噴出する血の量が半端ではない。
もう噴水とかシャワーのような感じで噴き出す。
「椿三十郎」の仲代達矢ぐらいでもっと長い時間の流血が戦闘シーンのほぼ毎回
(しかも「椿」はモノクロだったのに「残酷警察」はカラーです)。
冷静に考えるとあり得ないのであるが。
あり得ないシーンは他にもたくさんあって、
冒頭でルカがエンジニアのいるビルの上階に到達するためにバズーカ砲を地面に向けて発射して
逆向きに飛んでいくシーンなど。まあ映画ですから。
それから 脱出口はこちら うわーっ、やめろー!→多くのリストカットするシーンがありこれはちょっと閉口。
特に序盤でルカが夢想する?シーンは 痛そうだからやめてくれー!→ざくざくに切って切った上からまた切って、大量の血が吹き出るので
嫌悪感が大きい(でもストーリー展開上必要なシーンではある)。

ルカを演じる主演のしいなえいひはモデル出身ということもあり非常に手足が長くスタイルがよく、
ロングコート、ミニスカートにブーツ姿がはまっている。そして何より日本刀が似合う。
セリフは少ないがルカの、幼少時の十字架を背負った内面の描写がよく出た演技。
しいなえいひは演技力高い。日本刀使った殺陣も迫力ある。いい女優さんです。

地下鉄の車内で捕まえた痴漢を日本刀で制裁するシーンは
ルカがミニの着物に網タイツ&ブーツ、日本刀を仕込んだ番傘というすっ飛んだコーディネートで、
これじゃ痴漢して下さいって言わんばかり、だと思うが。
血の雨が降りそそぐ中、ルカが番傘をさして去ってゆく映像は赤と紫主体で美しい。
でもこの前の電車内のシーン、意味ないように見える髪を染めた男性が
脱出口はこちら うわーっ、気持ち悪いからやめろー!→金属製の箱の中の虫の幼虫や蛹を食べる場面があってこれどういう意味?って感じも(註1)。

展開の諸所で民間警察やよく切れる日本刀・よく切れるリストカッターなどのCMが挿入される手法はP.バーホーベンの「ロボコップ」を連想させる。
ブラックユーモア感たっぷりのCMであるがさすがに「よく切れるリストカッター」なんてじょしこうせいが自分の手首切ってニコニコしてるCMは若いのには見せられないと思う
そういえば「ロボコップ」もオムニ社により民営化された警察が出てきた。
またフリークスの造型(トータルリコール)大量の血&残酷シーン(氷の微笑)などもバーホーベンの影響なのか。
8マン
↓(死んだ刑事が機械化して復活)
ロボコップ
↓(民営化した警察の暴走)
東京残酷警察
という進化も見ることが出来る。

角のある兜と鎧をつけた警察署長と犬女のネタ元は
間違いなく永井豪のコミック「バイオレンスジャック」の
スラムキングと人犬(註2)。

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せむし男が巨大な銃で腕を発射するのは「マジンガーZ」のロケットパンチ。
畳敷きのマンションの部屋でちゃぶ台をはさんでルカとキーマンが対峙するシーンは
ウルトラセブンのメトロン星人の回の有名なシーン
終盤近くでなぎなた持った女性(民間警察関係者なのか?)と、
エンジニア化して腕が巨大なカッターになった女子高生のチャンバラのシーンがあるが
決着は女子高生が胸から溶解液を出してなぎなたの女性を溶かしてしまう。これはコミック「デビルマン」のミーコのイメージ
下半身が口になってる長澤つぐみ演ずる鰐女は石川賢の「魔獣戦線」のテイストが。

OVA版「バイオレンスジャック」でも実現しなかった人犬の映像が遂に映像化された。でも四つ足で歩く姿はアブナイ映像。
DVDの特典映像見ればCGなど駆使しているのがわかるが。
「残酷警察」の犬女は全裸ではなく拘束具やマスクをつけているが義手・義足が日本刀で、実は強い(註3)。

DVDの特典映像などを見ると、撮影は実質2週間で殆どリハーサルなしでの一発OKだったそう。
それにしては映像のつなぎがよくていいテンポで進み、音楽とのリンクもほぼ違和感なし。
絵コンテなど前準備の成功か。

そう、この映画どういうわけか音楽が素晴しい。
海外上映を意識してか太鼓や尺八の音色を加えているが
重厚なメインテーマは戦闘シーンによくマッチしていて
世界観の構築に一役買っているかのよう。
他にも見世物小屋的な人体改造売春バーのシーンでかかる歌詞がちょっと気持ち悪い歌なども。
DVDは初回特典でサウンドトラックCDがついていて、これだけ掛けてても充分聞ける。

流血・大量虐殺・リストカットなどの残酷描写と気持ち悪いシーンを別にすれば(この辺はおいらの許容範囲を超えてます)
世界観の構築、編集、鰐女・犬女などのフリークスの造型、音楽、
ルカのキャラクター立ち&しいなえいひの演技など見どころは多い。

出演俳優の中に隊長を演じた紅井ユキヒデ(Benny Yukihide)って方がいるんですが、
この芸名はどう考えてもマーシャルアーツのベニー・ユキーデから取っているのだと思います。

(09.0503)

註1:特典映像によると実際にそういうことが出来るスタッフの人らしい。
またこのシーンは幼少期のルカが自分の左手を使ったマペットのトカゲと話すシーンを差し置いて挿入されたそうである。
が、後半の伏線を考えると没テイクとなった「マペットのトカゲ」のシーンの方が重要ではないかと考えるのだが。

註2:DVDのインタビューでも監督がそう申しており、
犬女は「ジャック」の人犬と手塚治虫の「どろろ」の百鬼丸のイメージの合成だそうである。なるほど日本刀。

註3:ラストではさらに武装化して再登場。

2008年・米/SPOTTED PRODUCTIONS
製作:FEVER DREAMS
製作プロダクション:日活
監督:西村喜廣
脚本:西村喜廣、梶研吾
脚本協力・記録補佐:ナコシサヤコ
残酷効果:有限会社西村映造
CMパート監督:井口昇、山口雄大
音楽監修:中川孝

出演、配役:
しいなえいひ:ルカ(西東京警察のエンジニアハンター)
板尾創路:キーマン/その父(スナイパー)
堀部圭亮:ルカの父親(警察官)
紅井ユキヒデ:西東京警察の隊長
坂口拓(特別出演):エンジニア
菅田俊:西東京警察署長
山本彩乃:女子高生
長澤つぐみ:鰐女
中原翔子:人体改造売春バーのオーナー
ジジ・ぶぅ:西東京警察のせむし男
澤田育子:バーのオーナー
泉カイ:犬女

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