「ジャコ万と鉄」(1949年東宝版「ジャコ萬と鉄」の表記もあり)『大学』は誰の救世主となったのか。

1949(昭和24)年東宝(モノクロ・スタンダード)
監督:谷口千吉
製作:田中友幸
脚本:黒澤明、谷口千吉
音楽:伊福部昭
原作:梶野悳三『鰊漁場』

出演:配役
進藤英太郎:九兵衛(ニシン漁の網元)
英百合子:タカ(九兵衛の妻)
藤原釜足:宗太郎(マサの夫)
三船敏郎:鉄(九兵衛の息子)
月形龍之介:ジャコ万(片目のマタギ)
浜田百合子:ユキ(ジャコ万に横恋慕の女)
松本光男:大学(出稼ぎ漁夫)
久我美子:教会の少女

<あらすじ>北海道のニシン漁の網元九兵衛(進藤)は漁夫の賃金を安く上げるために
前科者や出所が不明な者らを多く集めていた。
やがて九兵衛はジャコ万(月形)という片目のマタギが漁夫の宿舎にいると聞いて震え上がる。
九兵衛は樺太から逃げてきた時にジャコ万の船を無断で使い(ジャコ万が死んだと思っていたらしいが詳細不明)
そのためジャコ万は樺太から脱出することが出来ず辛酸を舐めた。
ジャコ万は仕事をするわけでもなく宿舎に居続け酒を飲む毎日。
九兵衛はジャコ万に謝り金を渡そうとするがジャコ万は聞き入れず
「いつかお前に血の涙流させてやる」という。
そこに九兵衛の息子で死んだと思われていた次男の鉄(三船)が帰ってくる。
鉄は漁夫とともに働き始めたため人気が出始め、
九兵衛は鉄のリーダーシップに感心するが、姉夫婦は相続の問題が持ち上がりやきもき・・・。

08年8月上野スタームービーの特集で「銀嶺の果て」との二本立てで見る。
今の日本じゃニシンの漁獲高は低いらしいが、当時は「ニシン御殿」なんて言われるほど網元は儲かったらしい。
最近ではお正月の数の子と身欠きニシンぐらいしか食べないけど。
若い頃行ってた板橋駅近くの飲み屋が、ある時改装したら突如ニシンの塩焼きがメニューに出たけど、
干さない(あるいは干しが浅い?)生の塩焼きは身が淡白すぎてあまりおいしいとは思わなかったなあ。
それ以来生のニシンの塩焼きは一度も食べていない。
干して身欠きニシンにしないと味が出ないのでしょうか。・・・・何の話だ・・・。

最後にジャコ万は網元九兵衛の指示に従わず、賃金の安さからストライキを起こしそうな漁夫を扇動してが漁場に行こうとすると
ニシンが入った網の引き上げを銃を持って妨害する、「血の涙流させてやる」。
時間が経つとニシンが腹のタマゴを出しちゃって売り物にならないらしい。
借金がある九兵衛も大損害を被る。九兵衛はジャコ万に謝罪するが聞き入れず「お前に血の涙流させてやる」と鉄砲を構えるジャコ万。
「誰か頼む、網を引き上げてくれ」九兵衛が言うと、漁夫の中で「大学」と呼ばれていた体の弱そうな学生風の男が長靴を履き出す。
「日本の食糧事情のため」と言って海に出てゆくと、他の漁夫もどんどん海に向かって出て行き、ジャコ万の思惑は外れる。
それでも網をつなぐ縄を斧で切ろうとするジャコ万と、鉄が対峙。
鉄の説得でジャコ万も海に出て行き、網を引き上げ働き始める。

最後の漁は大漁で終わる。
しかし大学は・・・
「大学さん、そんなところで寝てると風邪ひくよ」と言われた大学はすでに冷たい骸と化していた。
大学の本名・住所は誰も知らず、残されていた手紙の封を鉄が開けようとしたが
ジャコ万の「教えられない事情があるのだろう」という意見に封を切らずに手紙は燃やされる。
そして峠に大学の墓が作られ、ジャコ万はかつてから追いかけられていた女と故郷に帰る。
鉄は・・・姉夫婦を気遣い、「俺は船乗りの方がいい(大意)」みたいなこと言って旅に出てゆく。

ストーリーは結構面白いが、純粋に雇用側と労働者側の対立がテーマになっているわけでもなく「海の荒くれ男たち」の話。
ニシン漁の歌?も独特。
歌詞はぜんぜんわかんないけど(お囃子みたいな感じ)。
「ソーラン節」はアイヌ言語・民謡などに一過言ある伊福部昭が音楽担当のせいか全然宴会の序盤ほんの少ししか出てこない。
三船の役は完全なベビーフェース。

逆にジャコ万が全編悪役のスーパーヒールみたいだけど、
病弱そうな大学が眠れないでいると、
無言でドブロクの入った一升瓶を彼の寝床へ投げ入れてやるなど、結構優しいところもある。
この映画では真の悪人は登場しないのだ。
意外に、一番腹黒かったのは網元九兵衛なのかも知れない。

宴会のシーンで鉄が「南の島の(原住民の)踊り」ってのを披露するシーンがあるが
ここは三船のユーモラスな演技が見れて貴重。
宴会では鉄とジャコ万が喧嘩になるが「じゃあ相撲とろう」みたいな展開になって
畳の真ん中で勝負。ここは鉄が投げ勝つ。

鉄が漁の休みの土日昼夜かけて犬ぞりを走らせて街の教会へ行くと、
場内では賛美歌が歌われて女学生がオルガンを弾いている。
鉄はこの女学生目当てに土曜の夜から犬ぞりを走らせて日曜に教会に来て、
女学生のオルガンを柱の陰に立って聴いている。
この女学生役が久我美子なんだけど、随分太め。
で鉄ってこれじゃ一歩間違えるとストーカー呼ばわりされるぞ(笑)。

(08.1109)

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