謎の海外版ラスト、淡水ダコ登場
「フランケンシュタイン対地底怪獣」

フランケンシュタイン 対 地底怪獣 [DVD]

新品価格
¥4,172から
(2010/9/14 04:42時点)


1965年東宝
監督:本多猪四郎
特撮監督:円谷英二
音楽:伊福部昭
出演:高島忠夫、ニック・アダムス、水野久美、土屋嘉男

<あらすじ>
広島で発見された放射能に強い謎の少年は
第2次世界大戦中にドイツから広島へ輸送された「フランケンシュタインの心臓」が成長した姿だった。
巨人に成長した少年は不慮の事故で研究所から脱走するが人間の迫害を受けることとなる。

東宝特撮の人気カルト映画、と呼べばいいのか。
初めに断っておくが「フランケンシュタイン」という名詞は、
死体を縫い合わせたボディに電気ショックを与えて誕生させた人造人間、の名前ではなく
その人造人間を誕生させた創造主たる博士の名前である。
これはメアリー・シェリーが書いた原作からボリス・カーロフ演じる四角い頭のイメージが定着したユニバーサル映画での登場、そしてこの東宝作品と、すべて一貫しているはず。
人造人間自体は名前がなく、本来は「クリーチャー」とか「フランケンシュタインの怪物」などと呼ばれているはずである。
さて映画だがオープニングの場面でドイツから日本に輸送されるために鉄の箱に中に収納される「フランケンシュタインの(怪人の)心臓」、
これは筆者幼少時とてもリアルな映像に見えたものであるが、40年近い歳月を経て同じ映像を見ると
液体の中につけられた「心臓」は多少動いてはいるものの特別脈を打っているわけでもなく
また造型も特別リアルなものではなく
「ドクン、ドクン・・・」という効果音に多分にイマジネーションを増幅させられたという感がしてならない。

終戦後、浮浪児に成長して保護された怪人は研究所で食事を与えられどんどん成長し
見た感じ身の丈5M以上にまでなる(この時点でもう人間の限界を超えてます)。
万が一のために檻の中で鎖につながれて生活していたが
不幸な事件のために檻の外に出てしまい逃走してしまう。

山奥に隠れ住むこととなった怪人。
成長し続ける彼は常に空腹。
空を飛ぶ鳥を捕獲しようと、森の大木を怪力で引き抜いて空に向かって放り投げる。
大木は鳥に当たることなく落下して山小屋を直撃、大破させる。
驚きの声を上げて逃げる木こり。
落胆する怪人が山の下に目をやると、イノシシの姿が見える。
今度はそれを捕らえようと、落とし穴を掘る。
穴の上を枯れ木で隠して待つ怪人。
しかしやって来たのはイノシシではなく、彼を捜索に来た自衛隊の戦車だった。
落とし穴にはまり、かたむいて動かなくなる戦車。
困惑する自衛隊員の間を走り去っていくイノシシ。
意外な状況に驚く怪人、あわてて山奥に去っていく。
この部分、大変ユーモラスに描かれているがそれでいて作品全体の怪奇ムード、質を落としていない。

箱根のバンガローが破壊され滞在者全員が行方不明になる事件が起こり、マスコミは怪人の仕業だと言わんばかり。
博士たち一行(ニック・アダムス、水野久美、高島忠夫)は怪人を保護しようと山の中を捜索するが、道に迷ってしまう。
高島忠夫(役名は川路博士)が、怪人を捕獲するための目潰し弾の威力を誇示しようとして爆弾を投げた。
そこに現れた地底怪獣。箱根のバンガローの事件はこの怪獣の仕業だった。一行に迫る地底怪獣。
危機一髪の一行を救ったのは、身の丈20M近くに成長したあの怪人だった。
フランケンシュタインの怪人と地底怪獣の戦いが始まった。
・・・と書くとあたかもフランケンシュタインの怪人が人間の危機を救ったかのようなストーリー展開であるが、はたしてそうなのだろうか。
地底怪獣バラゴンは箱根のバンガローで人間を食い、その他の地域でも家畜などを襲撃して
(食われた養鶏の白い羽根が飛び散るシーン、小屋の馬が襲撃されるシーンなどが確認できる)富士山麓までやって来た。
フランケンシュタインの怪人も人間こそ襲わなかったが大量の食物を必要とする巨体だ。
この戦いは勝者が、敗者の肉という大量の蛋白質の塊を獲得することができる弱肉強食の戦いではなかったのだろうか。
怪人が川路博士を救出したのは人間社会に対する恩返しと言うかあくまでも流れの上での「ついで」の出来事であり、
真の目的はやはり「バラゴンの肉」ではなかったのだろうか。
戦いは怪人がバラゴンの首をヘッドロックで締め上げて勝利する。
すると不意に地震が起こり、怪人はバラゴンの体と共に地割れに飲み込まれてしまう。
季子(水野久美)「・・・死んだのでしょうか・・・」
ボーエン博士(ニック・アダムス)「死んだ方がいいのかもしれない・・・所詮彼は怪物だ・・・」
物語は暗澹たる幕引きで終わる。

【バラゴンのライトモチーフ】
巨匠・伊福部昭氏の作曲。
バストロンボーンと後半の原初を想起させる強烈なリズムが、
目に見えるもの全てを食い尽くす地底怪獣の無慈悲さを表現。

【テレビ放送時の事件】
さて自分が小学生だった頃、この映画でちょっとした事件が起こる。
昭和40年代後半、この映画が多分初めてテレビ放送されたときの事である。
バラゴンに勝利して雄たけびを上げる怪人、しかし彼が目を向けたその先には・・・。
「あっ、あれは・・・」
「蛸じゃないか!」知り合いに久々にあったような、懐かしそうな言い方のニック・アダムス!
突如、第3の怪物大ダコが出現!
幼かった自分は何か違和感を覚えた。
(あれぇ?映画館で見たのと違う・・・?)
ような気がしたのだが、はっきり「違う」といえる自信はなかった。
何しろ映画館で見たときはもっと幼かったのだから。
そうこうしている間にブラウン管の中では怪人と大ダコの戦いが始まった。
そしてあろうことか、フランケンシュタインの怪人は大ダコの触手にからめとられ
湖の中に引きずり込まれてしまう(タコもおそらく大量の蛋白質を求めての登場だった、と推測する)。
「だめだわーっ!」水野久美の絶叫。
以下の台詞は同じだった。「・・・死んだのでしょうか・・・」「・・・所詮・・・」
究極の弱肉強食はラスト数分に登場した謎の大ダコが勝利した。
しかし何で富士山麓に大ダコ?山の中じゃん!というわけであれは「淡水ダコ」と命名された。
そして翌日の学校では友達たちは「映画館で見たのとは違う」という意見が多数だった。

これがおそらく、現在「海外版」と称されるヴァージョンが日の目を見た最初ではないだろうか。
「海外版」はラストに大ダコが登場することがオリジナル版との最大の差異であるヴァージョンで、
他にも季子のアパートに怪人が別れを告げに来た後、パトカーに追い立てられるシーンなどに若干の違いが見られる。
この「海外版」、本作が東宝と米・ベネディクト・プロとの合作であることから
東宝がベネディクト・プロ側から「アメリカ人が好きな巨大生物」大ダコの登場を依頼されたという説をどこかで読んだ記憶が。
しかし結局は「海外版」は正式には上映されなかったらしい。
それでお蔵入りしていたフィルムが、テレビ放送ということで何かの拍子に間違ってフィルム管理庫から出され電波に乗せられ・・・
まるで鉄の箱に入って何十年も眠っていたフランケンシュタインの怪人の心臓が、箱のふたを開けられて公開されたかのような話だ。
いや、もしかしたら「海外版」の方が正しいラストなのかもしれない・・・。
なぜならパラレル・ワールド的な世界観ながら続編と謳われている「サンダ対ガイラ」
そのオープニングはフランケンシュタインの怪人の分身たる海のフランケンシュタイン、
ガイラが海上での対決で大ダコを退けてリヴェンジを遂げるシーンから始まるのだ。

(2004.1223、加筆2005.0103)



偏食ムービーに戻る
目次に戻る
SAMEDASU扉に戻る

web拍手 by FC2