「燃えよドラゴン・ディレクターズカット版」塚原卜伝と「007/ドクター・ノオ」のテイスト。

ディレクターズ・カット 燃えよドラゴン 特別版 [DVD]

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09年7月、DVD購入。
武術トーナメントが開催されるハンの要塞島に向かう船上で
ニュージーランドのファイター、パーソンズがリーを挑発(以下字幕に基づく大意)。
パーソンズ「流派は?」
リー「戦わずして勝つ術だ」
パーソンズ「戦わずして勝つ術?見せてみろ」
リー「後でな・・・」
パーソンズ、去ろうとするリーの肩に手をやって食い下がる。
リーは仕方なくパーソンズの挑戦を受けるが、船の上では狭いと言う。
パーソンズが「じゃあどうするんだ?」と質問するので
リーは海上を指差し「あの島に行ってやろう。この小舟で」。
やる気満々のパーソンズが先に小舟に乗り込むと、
リーはそのまま小舟を出し、パーソンズを孤立させてしまう。
小舟はロープにつながれて沈まないものの中に水が入り込んでびちゃびちゃ。
嵌められてくやしがるパーソンズ。


このエピソード、石ノ森章太郎のコミック「塚原卜伝」でソックリな話を読んだ。
ウィキによると「甲陽軍鑑」にこの話が載っており、
卜伝は琵琶湖の船中で勝負を挑まれた際、うまく相手を言いくるめて小島に置き去りにしたそう。
相手は餓死したとも(出所不明)。卜伝は「先に相手を舟に乗せた」のではなくて「先に相手を舟から降ろした」ようだが。
日本の武芸者のエピソードを脚本家が知っていたのか。
それとも同じような話が中国にもあったのか、収斂進化か。
塚原卜伝とブルース・リーの接点は不明。

ウィリアムスが禁止されている夜の外出で
スパイ活動をしているリーが高所を登っているのを見てポロッと一言言うシーンはユーモラス。
実際は「A Human Fly」と言っている。ハエ人間。
DVDの日本語版字幕では「鳥人だ」。
テレビ放映時の吹き替えでは「猿みたいな奴だな」と言うのを見た。
だがある年齢以上の日本人が視聴する限り最も受けたと思われるのは
リアルタイム劇場上映時の日本語字幕、「月光仮面だ」
確かに月夜なら面白い、劇場内で観客の笑いが聞こえた名訳だ。
でもウィリアムスが日本の月光仮面を知っていたのか(笑)。
アメリカの作品なら「バットマンだ」というセリフでも面白かったかも。
リーはアメリカ時代に出演していたTVシリーズ「グリーン・ホーネット」にケイトー役で出演していたが、
TVシリーズ「バットマン」にもケイトー役で出演したことがあるそう。

どこかでストーリーのコンセプトが「007/ドクター・ノオ」から引用されたと読んだ記憶がある(出所不明)。
なるほど、「スパイが島に潜入、島の主は鋼鉄の義手を持った中国人犯罪者」
という話はまるまるドクター・ノオだ。
他にも気付いた共通点を少し。

・先に黒人が殺される、最後に白人が助けを出す。
・スパイが毒を持った生物と遭遇する(「ドクター・ノオ」=毒グモ(タランチェラ)、「燃えよ〜」=コブラ)
・スパイは島で女と出会う。
・スパイは捕獲されてしまうが、最後は逆転する。

酒も女も興味ないリーの代わりに、何にでも「賭けるかね?」と持ち出すローパーはお色気シーンも担当。
アーナ・カプリのタニアに背中を踏ませるマッサージ。
この辺り、007のエッセンスがリーとローパーに分割されているよう。
もっともリーはギャンブルはやる?らしくカマキリ勝負でローパーに勝利。


1973年アメリカ/香港(ワーナー・ブラザースとコンコルド・プロダクションの合作)
監督:ロバート・クローズ
製作:フレッド・ワイントロープ、ポール・ヘラー
共同製作:レイモンド・チョウ
脚本:マイケル・オーリン
音楽:ラロ・シフリン
武術指導:ブルース・リー、ラム・チェンイン(林正英)

出演:配役
ブルース・リー(李小龍):リー
ジョン・サクソン:ローパー
ジム・ケリー:ウィリアムス
アーナ・カプリ:タニア
ボブ・ウォール:オハラ
シー・キエン(石堅):ハン
アンジェラ・マオイン:スー・リン
ベティ・チュン:メイ・リン
ジェフリー・ウィークス:ブレスウェイト
ヤン・スエ(楊斯):ボロ
ピーター・アーチャー:パーソンズ
トニー・リュウ(劉永):選手
サモ・ハン・キンポー(洪金寶):少林寺でのリーの対戦相手
松崎真:宴会の力士
ジャッキー・チェン(成龍):ハンの手下

香港俳優B.リーが主演しカンフー映画というジャンルを全世界に知らしめ、
銃を使用しない殆ど素手でのアクション映画をアメリカで認知させ、
上半身裸の肉体美をみせて戦うというスタイルを確立するなど
この映画の出現でアクション映画のその後を変えてしまったとされる歴史的・伝説的映画。

ディレクターズカット版での追加シーン。
少林寺でのサモ・ハン・キンポーとの試合の後、
イギリスの情報官ブレスウェイトと面会する前にリーと高僧が話す。
高僧はそこで「敵の“像”に惑わされるな、“像”を撃てば敵は倒れる」とリーに諭す。
その言葉が、クライマックスのハンとの鏡の部屋での対決で戸惑うリーの頭の中に浮かぶシーンへとつながる。
この辺りの、高僧との会話のシーンとお茶を飲むシーンは「死亡の塔」に流用されていますが、
ありゃひどい映画だったなあ。日本のシーンもあったけど。

オープニングのサモ・ハン・キンポー戦はオープン・フィンガー・グローブを着用し
リーは打撃から投げ、最後はグラウンドでのクルスフィック・ホールドのような関節技でタップを奪う。
このシーンが「総合格闘技の元祖」と言われる由縁。
撮影された1973(昭和48)年は総合格闘技の「そ」の字もなかったことだろう
(ブラジルではグレイシー柔術が世界進出の機会を伺っていたようだが)。
バック転など映画的な演出もあるが、鋭い攻防はまず魅せられる。

ハンの島の武術大会だが、この武術大会、どんなルールなんだろうか。
招待選手は黄色の道着(リーは着用しないで注意される、が無視)、ハン側の選手(オハラなど)は白の道着。
芝の上での試合のせいかシューズ着用。
右手を出してお互いの甲を合わせた形からスタート。
ボロが「始め!」と叫ぶシーンがあるが、審判がいないように見える・・・。ボロが審判なのか?
何回ダウンしても試合は続く。「一本」も「判定」もないよう。
どちらかが動けなくなる、或いは意識を失うなどして戦闘不能になるまで続行されるよう。
素手での顔面攻撃あり。
時間無制限?ノーレフェリー。
もうデスマッチルールです。
ローパーとウィリアムスは賭けのカモを見つけてこづかい稼ぎ。

ハンがローパーに地下のアヘン製造工場を見せるシーンのあと、
地下牢に閉じ込めてある囚人たちの前を通るシーンがあるが、
一人の老人がアップになる。無表情。
でその後リーが地下で警備員に発見され例の大乱闘になるシーンで
再び地下牢の前になるのだが、
再び同じ老人のアップが見られる。
ここ初見の頃からどういう意味なのか、老人は誰なのか友人と語っていたが未だに不明。

クライマックスの鏡の部屋のシーンは異次元的な映像美。
メイ・リンは囚人たちを脱出させたけど、ラストには登場しない。どうなったのか。
兎にも角にもブルース・リーの魅力が最大限に発揮された映画。
それが主演作日本初お目見えで、しかもハリウッド資本だったから
その後の香港での作品は「燃えよ」のボルテージまではなかったと思う。
事実上の遺作であり他作品に比べると痩せており、それがまた悲壮感持った出来になっている。
あとジャッキー出ますね、ジャッキー。ブルース・リー対ジャッキー・チェンが実現していたという。
ジャッキーの出るシーンは有名になっちゃったなあ。

(09.0720、7月20日はB.リーの命日)
参考:ウィキペディア

(追記=09.0727)
ハンがローパーと話するシーンで
ハンが白い猫抱いてるけど
それって「スペクター」の首領のブロフェルドのまんまじゃん。
やっぱり父007だな。

関連記事:『ブルース・リー「死亡遊戯」と「G.O.D 死亡的遊戯」
そしてケイブンシャ発行の「死亡遊戯」ノベライズ』はこちら


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