「キング・コング(1933年RKO製作版)」世界第8番目の謎こそ偉大なる怪獣映画の元祖。

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1933年アメリカ・RKO、モノクロ・トーキー
製作・監督:メリアン・C・クーパー、アーネスト・B・シェードザック
製作総指揮:デビッド・O・セルズニック
脚本:ジェームス・クリールマン、ルース・ローズ
特殊効果:ウィリス・オブライエン
音楽:マックス・スタイナー

出演:配役
フェイ・レイ:アン・ダロウ(女優)
ロバート・アームストロング:カール・デナム(秘境・猛獣映画監督)
ブルース・キャボット:ジャック・ドリスコル(船員)
フランク・ライチャー:エンガーホーン(船長)

学生の頃か社会人初期だったと記憶してますが、文京区白山にあった三百人劇場という劇場のRKO映画特集にて見る。
テレビなどで断片的に映像を見たことはありましたが、通して見たのはこの時が初めて。
で最近廉価版のDVDで再見。

あまりにも有名な映画で、先人による研究にて語りつくされている感じもあるので
似た意見があったらご容赦。

戦前大ヒットした映画で、倒産しそうだったRKOはこのヒットで息を吹き返したそう。
ストップモーション(コマ撮り)による人形アニメはCG映画が横行する現代ではチャチに見えるかもしれないが
当時の技術・鑑賞眼では「巨大な怪物が同じ場面で人間を襲う」映画は大変ショッキングでエキサイトなものであったに違いない。

序盤、デナムがリンゴを万引きしようとしていたアンと出会って彼女を次回作のヒロインとしてスカウトし、
出航し、島(スカルアイランド)に着いて
原住民と遭遇して、アンが原住民に誘拐されて、祭壇で「コングの花嫁」にされて、ようやくコングが登場する(長い長い)。
アン絶叫。コング、器用にアンが繋がれているロープをはずしてアンを連れていく。
この辺コングが結構知能が高いように描かれている、あのままアンを引っ張ったら手が引きちぎれちゃう。



一行がジャングルの奥に通じる巨大な門を開いて、アンを救出に行くとそこには前世紀の恐竜が。



剣竜ステゴザウルスが突進してくるシーンは「ジュラシック・パーク」の2作目の序盤とそっくり。
ステゴザウルスは銃殺されるが、まだ尻尾がピクピク動いている横を一行が通るのは…
「ウルトラマン」の「怪獣無法地帯」多々良島でマグラが科特隊の攻撃で倒された場面。
さらに一行が奥地に進むと湖越えをしなければならなくなり、首長竜が襲撃。
でもあの種類って、草食性じゃないのかな。
一行が丸木橋を越えようとするとコングが出現、
丸木橋を掴んで持ち上げ、回転させて船員を谷底に落とす。
これはリメイク版でも踏襲される有名なシーン(しかし残忍なシーンのためか日本・東宝の2作にはまったく登場しない)。

出所不明の記事の引用ですが、
このオリジナル版ではこの後、谷底に落ちた船員に「蟹のような大蜘蛛」が襲いかかり食べてしまうシーンがあったそう。
しかし残酷なシーンで試写で不評だったらしく、カットされてしまい見ることができない。
ピーター・ジャクソン版の「谷底の虫のシーン」はオリジナル版でカットされた未発表の場面の再現であり貴重。
P.ジャクソン版も相当気持ち悪いから、
この幻の映像が試写会で不評だったというのも推して知る
(その、オリジナル版の蜘蛛の写真は見たことがある、蜘蛛だか何だかよくわからなかったが)。

丸太橋からの落下を、崖下のくぼみに逃れたジャックに大トカゲが忍び寄る。
この大トカゲ、日本製の「キングコング対ゴジラ」で藤木悠が遭遇し振りまわす大トカゲのシーンで再現されている。

コングはアンを狙うティラノサウルス、大蛇(よく見ると短い足がある)、翼竜(プテラノドン)を連破。
ティラノサウルスとコングの肉弾戦は迫力。



コングは最後、ティラノサウルスの口を引き裂いて勝つが、
東宝の「キングコングの逆襲」でゴロザウルスと対戦するコングが
このオリジナル版のシーンのオマージュであることがよくわかる。

大蛇戦も、大蛇が尾で執拗にコングの首を締めつけ
コングが呼吸が苦しそうに、締めつけがうっとうしそうに戦う描写は生物感に溢れている。

その後コングはアンの服を指でいじって脱がしたり、
匂いをかいだりする。
意外と扇情的。

ジャックがアンを救出すると怒ったコングがアン奪回のため門前までやってくる。
おそらくコングと原住民の間では長い間
「○年に一度女を生贄にする、
そうすれば門から先には出てこず、村を破壊しない」
という一種の「契約」があったのではないか
(しかしそれならば毎年の生贄の女の末路はどうなったのか、やはり最後はコングに殺される運命なのかという疑問が残る)。
もちろんコングと原住民に言葉による「契約」があったとはしないが、言いかえれば「暗黙の了解」とでもするべきか。
アンを奪回されその契約が遂行されない形になったコングは怒る。
ゲートを破壊して村側に侵入したコングは原住民を噛んだり踏んだりして殺しまくる。
この辺、コングに慈悲などなく怒れる野獣としての表現。
しかしデナムの用意したガス爆弾で昏倒。

舞台はニューヨークに代わり、コングは劇場で鎖につながれた姿で公開される。
この舞台のシーン、東宝の「モスラ」にて小美人が劇場公開されるシーンにそっくり。
デナムの口上も「モスラ」のネルソンによく似ている。

コングは舞台で見世物にされるが、報道陣のカメラのフラッシュに怒り出して鎖を切断。
そして劇場を脱出、ニューヨークは大パニック。
怪獣が光に反応するっていうのもその後の定番。
高架線の列車を転覆させる大暴れ。
列車の運転席からの映像が昭和29年の「ゴジラ」。

コングはアパートのアンを捕え、エンパイア・ステート・ビルを昇り始める。
警察は複葉機4機を出動。原始の力対最新鋭文明の対決!



複葉機は機銃でコングを攻撃。コングも複葉機を1機墜落させる。
胸に機銃を受けたコング。自分の胸の傷、血を指で確認するしぐさも生物感あり。
コングは次第に弱っていき、落下して死ぬ。
しかし驚くのはコングはアンを一度は手にするも、
道連れにして落ちることをせず(つまり心中ではない)、
アンをそっと逃がしてから墜落することだ。
しかも落ちる最期までアンに手を寄せ指でタッチするしぐさをする。
まぎれもないコングの愛情表現のシーン。
この人間と怪獣の異種間の愛の表現、脚本・監督は何を表現したかったのだろうか。

しかし、後年の東宝「キングコングの逆襲」やリメイク版に見られるアンとコングの心の交流はオリジナルには全く見られない。
アンには終始野獣への恐怖があるのみ。
野獣は美女を愛したが(あるいは興味を持ったが)、美女が振りむくことはなかった。
最後はデナムの「飛行機が殺したんじゃない、美女が野獣を殺したんだ」のセリフで終わるが
フェミニストがファム・ファタールに殺されて終わる、っていう巨大怪獣映画ってのもあまり記憶にない。
そういう意味では先にも述べた怪獣映画の元祖的な作品でありながら非常に特異。

ということで作画の技法は現在の技術に比べるべくもないが
後年の映画に多大な影響を与えた映画であるのは間違いないし、
内容的に現在でも充分鑑賞に耐えられる怪獣映画のクラシックである。
円谷英二がこのフィルムを研究して日本初の本格巨大怪獣映画「ゴジラ」を完成させたのは有名な話だし、
ゴジラが誕生するためのエレメントの一つ(あるいは「父」)だとしたら
全ての日本の巨大怪獣映画にコングのDNAが流れていると言っても間違いはないだろう。


【その他】
どの版見ても謎なのは
スカルアイランドで眠らせたコングをどうやって運んだ、かだ。
オリジナル版では「いかだを作って運ぼう」というセリフがあるが、いかだ作った後、どうやってコングをいかだに乗せた?
「キングコング対ゴジラ」でもどうやってコングをいかだにつないだか、いかだに乗せたか。

「対ゴジラ」では国会議事堂前からゴジラとの対戦場・富士山麓まで気球で空輸。
「キングコングの逆襲」ではモンド島でドクター・フーが眠らせて捕獲したコングを
複数のヘリコプターで手足をつないで空輸。
・・・何だ、ちゃんと「コングの輸送」を描いているのは日本版だけじゃん。


それからアパートに逃げ込んで「もう安心」と思ったアンとドリスコルだが、
コングはアパートよじ登って窓から手を入れてアンを奪回。
何トンあるかは不明ですがあんなデカイ猿がよじ登ってきたら
無音、無振動ってことはないと思うんですが。
それに気づかない二人って。

(2010.0321)

参考:モスラの精神史 小野俊太郎 講談社現代新書 2007年7月

あなたの知らない怪獣マル秘大百科
この原点を見ずに「ゴジラ」を語るな!「キング・コング」「原子怪獣現る」切通利作 1997年洋泉社

100322追記
原住民の子供が真ん中に置き去りにされて
酋長、コングが進んできてあわやというところで母親?が抱きかかえて救出するシーンが2回あるけど
こういうシーン、「地獄の黙示録」にもあるなあ…。
米軍のヘリコプターの戦隊がベトナムの村落を襲撃するシーン。
…ってことはP.ジャクソン版で「闇の奥」が出てくるのと何らかの関係があるのか?偶然?



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