製作:東宝 1960年「ガス人間第一号」より
原作映画脚本:木村武
脚色・演出:後藤ひろひと
主題歌「焼心者(しょうしんもの)」:中村中
音楽:中村中、小西鷹雄
↑ロビーのオブジェのガス人間。頭部から白い煙が出てる。
出演:配役
高橋一生:橋本(ガス人間)
中村中:藤田千代=フジチヨ(歌手)
中山エミリ:甲野京子(雑誌記者)
三谷昇:老人
山里亮太(南海キャンディーズ):田宮(ガス調査員)
後藤ひろひと:紋太(音楽プロデューサー)
渡邉紘平:田畑(刑事)
水野透(リットン調査団):戸部(編集長)
悠木千帆:川崎(記者)
水野久美:久子
伊原剛志:岡本賢治(刑事)
09年10月3日、有楽町のシアタークリエで観劇。
意識したわけではなかったが初日公演でした。
場内に入るとBGMがかかってて
「バラダギ」「喉まで出かかった言葉」
「わたしのシーサー ミヤラビの祈り」「モスラの歌」「返せ!太陽を」とか、
東宝特撮映画の曲ばかり(大笑)。
しかも「喉まで出かかった言葉」なんてかなーりマニアックな選曲でしょう。
「サンダ対ガイラ」のビヤガーデンのシーンで外国人歌手が歌ってる曲。
あ、もちろん映画版ガス人間のあのウルトラQみたいな曲もかかりました。
観客は半分以上女性。ちゃんとした演劇ファンか、それとも中村中ファンか。
特撮ファンみたいな方々も・・・いました。
上演直前「返せ!太陽を」がかかった時、
映画で歌手がやってたように両手を挙げていた君たち!(笑)
藤千代は映画版では没落した日本舞踊の家元だったが
舞台版では活動停止中のJ-POPの歌手。
老人が付き添う点は同じ(今回は目の不自由な老人という設定)。
歌手活動を再開しようとするフジチヨ、
しかし元所属していたグループ「JOWKI」のメンバーが次々に謎の死を遂げていく。
前半は推理仕立て。
舞台装置は殆どなく、中央に階段式の二段の舞台がある程度。
場面の転換には回り舞台が使われる。
そういう関係でセリフがかなり説明調ではある。
だが効果音などが有効に使われているのでそれほど気にならない。
あと携帯電話というアイテムがストーリー進行に一役買っている演出。
前評判ではコメディタッチという情報があったが、確かに笑いを取るシーンはかなりあるが、
ストーリー自体は映画版を踏襲したモンスターとアーティストの悲しき愛の物語。
ガス人間は手からガス=煙を投げつけて攻撃、どんな仕掛けなんでしょうか?
中村中が歌うシーンが3回ぐらいあるが、ものすごい存在感。
クライマックスの劇場のシーンは、何とフジチヨが客席横のドアから登場!
つまり劇場のシーンだから、客席をそのまま活用したということ
(チケットは警察が買い占めたので、客席は無人という設定)。
観客席の舞台化!すごい演出だ。プロレスの場外乱闘さながら。
フジチヨがステージに上がると、反対側のドア(おいらの席の真ん前)からガス人間登場。
ステージ衣装も美しく「焼心者」を歌うフジチヨ。
映画版よりむしろフジチヨが強い存在になっていて、ガス人間をリードするような展開もある。
「抱いて・・・抱きしめて」いざなうフジチヨ。
なぜか岡本刑事は作戦を中止し解散を宣言する。
抱き合う二人、しかしフジチヨはライターに点火する。
轟音の中舞台は暗転し、大音響のインストルメンタルの「焼心者」のメロディーがかかる。
ガス人間の誕生は、彼が勤務していた化粧品会社で生体実験に応じたためだった。
その化粧品会社の名前は、リーゼンドルフ!
「フランケンシュタイン対地底怪獣」に登場した博士の名前!
実現しなかった幻の企画「フランケンシュタイン対ガス人間」両方の世界が融合した、とは千里眼氏の意見。
クライマックスの後、映画版にはない衝撃のラストがある。
ダークな雰囲気を醸し出しての終わり方。ガス人間の生みの親、佐野博士は生きていた!
これはちょっと、なくてもいいかも知れない気が。
あの壮絶で美しいクライマックスの余韻を楽しみたいと思った。
でも水野久美様の最大の見せ場っていえば見せ場。かなーり怖い。
カーテンコールは大拍手!スタンディングオベーションするお客さんも。
ストーリー、演出も大変よく出来ていて、たぶん進行もノーミス。
それに中村中の生の歌も聞けるとあってお得感たっぷり。
映画版のイメージを損なうことなく、まったく新しい作品として完成している。
10月31日まで公演中、特撮ファンならずとも機会があればぜひ見るべき。
素晴しい舞台です!
(09.1004)
09年10月25日、2回目を見に行く。
リピーターを飽きさせない細かなマイナーチェンジがありさらに楽しめた。
ロビーのガス人間のオブジェはガス出さずに帽子被ってました。
また演出の後藤ひろひと氏のブログ「ひろぐ」によると、
「ブログを見た方は『返せ!太陽を』のところで映画よろしく両手を上げてと呼びかけていて
ここで手を挙げるのが観劇の正しい御作法だと思いました。
ってことは「返せ!太陽を」が場内にかかった時点でもうお芝居は始まっている、と考えるのが正解だと思う。
実際、「返せ!〜」がかかると音が大きくなりました。
んで、やっちゃいました、「かーえせ」のところで両手挙げ(笑)。
2度目は前回と反対側の席だったので、フジチヨと老人がドアから入ってくる側。
いやー、中村中さんを間近で見てしまいましたよ、確かにオーラが漂ってました。
88年全日本最強タッグ後楽園のブッチャー&シンvsスヌーカ、タイガーマスク(三沢)の大場外乱闘、
96年エマーソン・レイク&パーマーでのキース・エマーソンの舞台飛び降りてのキーボード演奏、
07年全日本最強タッグ後楽園での鈴木みのるとのアイコンタクト、
それに次ぐ場外での興奮(笑)。
ガス人間は初日では堂々と客席に入って来たが、
25日では、自分の脂肪を消費してガスを発生しているという設定なので
ガス化を続けていると次第に体力が低下してゆく。
そのためよろよろと場内に入ってきた。
25日は観劇終了後トークショーという楽しい企画もあり(後藤さん、中山エミリさん、中村中さん3人)、
そこで「返せ!太陽を」の説明があり、「じゃあやってみますか」ってな感じで
場内に再び「返せ!太陽を」がかかり、中村さんが「ハイ手拍子!」ってな感じで客席を扇動(笑)、さすがミュージシャン。
で、「かーえせ!」のところで客席の皆さんが手を挙げた!もちろんおいらももう一度。
大成功!ですか。
【衝撃の真実・なぜ舞台版ガス人間は「水野」ではなく「橋本」なのか】
さて、前述の後藤ひろひと氏(通称:大王さま)のブログ「ひろぐ」には「ガス人間ネタバレボード」という掲示板があり、
千里眼氏が先行して遊びに行くと大王さまからレスがあった(スゴい)。
その後おいら切鮫も参戦。
「他の主要キャストの役名は映画版と同じなのに何故ガス人間だけ『水野』ではなく『橋本』なのか?」
と疑問を書いたら、おいらも大王さまからレスもらってしまった。
その答えには驚いた。前半は略すが、
故・木村武氏による映画版オリジナル台本では
ガス人間は「水野」ではなく「橋本」だったそうだ。
おそらく対照的な刑事・岡本と橋本とを同じ「本」で終わる名前で比較できるような意図があったのかも知れない、
とは大王さまの推理。
「原作へのリスペクトと、自分が描きたかったガス人間像」その2つの理由により、
舞台版のガス人間の名前はオリジナル台本の「橋本」を採用したそうだ。
大王さまは、
「もしもあなたの周囲にその疑問を持つ人がいれば
是非とも私がここに記した言葉を使って
説明してあげていただきたい」
と語る。
そして決してガス人間・水野を否定したわけではなく、
作品に対する深い深い愛情が原作台本の「ガス人間・橋本」を甦らせた、そうである。
このレスを読んで再び深い感銘を受けた。原作に対する愛情・リスペクトがあってこその「橋本」だったわけです。
演劇雑誌シアターレビューでの大王さまのインタビューでは
D.クローネンバーグ監督の「ザ・フライ」がお好きな作品だから(おいらも気に入ってるよ)
「ハエ男対ガス人間」をやってみたい、とか書いてあったし、
衝撃のラストから「ガス人間第2号」の可能性もあるし、
東宝映画の未実現シナリオには「フランケンシュタイン対ガス人間」もあるし、
また長生きしていればいずれガス人間に遭遇できるかも知れない。
(09.1027)
【その後のいろいろな話】
新装なった「キネマ旬報データベース」で「ガス人間第1号」と検索すると
http://www.kinejun.jp/cinema/%E3%82%AC%E3%82%B9%E4%BA%BA%E9%96%93%E7%AC%AC%E4%B8%80%E5%8F%B7
ガス人間の名前が「水野」ではなく「橋本」になっている。
そして警官田端とその家族を虐殺する、というストーリーが紹介されている。
明らかに大王さまが紹介したオリジナル脚本のまま。なぜオリジナル脚本がアップされているかは謎。
おそらくキネ旬に資料を提供した東宝が古い脚本を渡したのではないか。
舞台版に名前だけ登場するガス人間の被害者は以下の東宝特撮作品からの引用と思われる。
「芹沢大助」=「ゴジラ(昭和29年版)」演:平田昭彦
「新井千加子」=「美女と液体人間 」演:白川由美
「柏木久一郎」=「空の大怪獣ラドン」演:平田昭彦
岡本刑事のケータイの着信音は「ゴジラ」防衛隊の曲。
テレビ局のお土産で遊ぶ編集長、そのおもちゃがキングギドラ。
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