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あのころの亀 | |
モシモシカメヨ カメサンヨ セカイノウチデ オマエホド…と歌いながら進んでいた。亀の背にあって、一歩一歩、時間の中身をじっくりかみしめながら、このゆるやかな進みを楽しんでいた。そのとき、耳もとを「キーン」と空気を裂く音を残してナメクジが通り過ぎていった。それを追い越す勢いでカタツムリも走り去ってゆく。…アユミノノロイモノハナイ ドウシテソンナニ…突如、私は風を切って快走しはじめていた。「ダンナ、そりゃあんまり不認識が過ぎるというもんですぜ。あっしだって世間並みの進み方ってものをしなきゃなんねえんですよ。今じゃもう時間の中で生きるなんてまどろっこしい進み方じゃ間に合わず、何もかもがどんどん時間より早く進んでいるんでさぁ。生き物は、生れる前にもう生きていなきゃぁなんねえし、もちろん、生まれたときにゃ、もはや死んでいるってな具合にねぇ。それにもう立ち止ることはもとより、減速することだってできやしねぇ。そんなことすりゃ、ほら見なせぇ、あとから時間がつっ走ってきて、たちまち追突されちまいまさぁね。」もう世界にあのころの亀はいない。モシモシカメヨ…の歌も、もちろんなくなった。 |
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