梅田英俊の世界 トップページ 最新情報 略 歴 作品紹介 作家より 梅田アトリエ
鉛筆画
壷の中
 裏山で見付けたこの古壷の中のざわめきは何と人間たちの声だったのです。「私を信じて出ていらっしゃい。君たちは小さな壷の中にいるんだよ」と呼びかけると、出てくるどころか世界中が(壷の中には空や海山もあり、独立国が百以上もある“世界”なのだと後でわかった)仰天して大騒ぎになってしまったらしいのです。文化程度は高く、特に機械力を縦横に駆使した生活様式はわれわれと同じで、やはり空気や水の汚れがひどく、だから科学者などはあまりにひどい地下資源の乱掘、環境破壊による異常現象だと判断したほど、私の声はすごい轟きだったのです。私は出来るだけ静かに呼びかけを続けたのですが、何しろ五十億年もの歴史をもち、アメーバやアンモン貝の時代、爬虫類、哺乳類、人類と生物の推移まで外の世界と全く同じで、人の身長一メートル六十センチ、平均寿命六十年とこれまた同じ人生を持っているのです。ただわれわれのいう一秒が十年にあたり、つまり平均で六秒しか生きていないことになるのですが、彼らは私のいう時間単位も信じそうにないのです。 さて先週、原因不明の大音がわれわれの天にも轟きましたね。科学者は異常な自然現象だといっていますが、私には「壷から出ておいで、君たちは六秒しか生きていないんだ」と聞こえたのですが…。
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